これまで見てきたように日本のマスコミの報道が偏向されている箇所がある事は、通常のニュースとここで開陳してきた情報と比較することによって、その差がわかるだろうと思います。その他にも日本人的見解と不一致な点もあることや周辺にまつわる不認識な事柄をピックアップしてみようと思います。
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北朝鮮関係★金正日総書記の家系図★世襲制の理由★金正日総書記はマキャヴェリスト★北朝鮮への異常な支援★不可思議な行動★「朝日新聞・朝鮮版」が報じていた「大日本帝国下の朝鮮半島」近代化の真実★
その他★北朝鮮と日教組の関係★「日教組60年史」の書かれざる一章★
日本関係★「侵略」の規定★日本夜明け前、治乱興亡の風が吹く★
余談★繁栄のヒント～「ポケモン学院」を海外に～★韓国軍艦「天安」沈没の裏側★「不作」に終わった金正日訪中★
歴史関連★安倍首相よ｢教育再生は正しい歴史認識から｣をお忘れなく ～階級闘争史観ムキ出しの教科書ではまっとうなナショル・アイデンティティは育たない～★
●朝鮮半島を語る前に、前提として知っておくべきだと思うことを記します。
①終戦時、日本の在外残留資産は日銀の調査によると１兆１１１０億円ですが、そのうち南に２５８億円、北に３１２億円（ＧＨＱ調べ）、これが両国の建国の基礎となった。
◆北朝鮮関係
●金正日総書記の家系図（*11）
●世襲制の理由（*11）
～金日成批判を恐れた～
なぜ、金日成主席は「世襲」を考えたのか。中ソ両国で、独裁者の死後「スターリン批判」や「毛沢東批判」が起きた事実に、恐れを抱いたからだ。息子以外の人物を後継者にすれば、必ず「金日成批判」が起きる。
また、金日成出席につながる幹部も、指導者が変わればポストを失い追放される恐れがあった。そうした心配が、「元老たちを守る指導者」を必要としたのである。
金正日総書記は、金日成主席の信頼を獲得し元老たちの心をつかむ術に長けていた。「老人キラー」であった。老人たちの心をつかむために、映画や演劇、歌劇などの「芸術」を利用した。
北朝鮮国内での対立の存在や、「世襲」の理由を、朝鮮総連に伝えられた指示から、十分に読み取ることができる。
～「世襲」反対勢力がいた～
この報告書の要旨を見ていただくと、金日成主席がなぜ世襲を決断したかが、わかる。ソ連での「スターリン批判」に、相当ショックを受けたのだ。自身の死後に「金日成批判」が湧き上がるのを、恐れたのだ。
朝鮮総連中央本部の特別幹部後援会における報告からは、「世襲」を実現するために、相当に苦労した事実がわかる。反対勢力が存在した、という事実も明らかにされている。
この報告書の中では「唯一的指導体制」という言葉が、何度も使われる。これは、指導者の指示だけに全ての国民が従う、という意味である。北朝鮮の末端にいたるまで、指導者の指令に従う体制を意味する。
この結果、指導者の指示以外の命令や解釈は、存在しないことになる。また、指導者は無謬であり、絶対に批判できない存在になる。朝鮮総連の「報告」要旨は、次のような内容であった。
一、 レーニンはスターリンを後継者に指定したが、スターリンは後継者を指定せず、そのため革命と建設は修正主義に陥り、人民は苦痛をなめている。
一、 金正一同士の唯一的指導体制を確立することを妨げ、党内に長い間隠されていた反党、分派主義者たちは徹底的に粉砕された。
一、 一世以上にわたる国際共産主義運動の経験と教訓はわれわれに何を教えているか──①首領の偉業を受け継ぐ後継者は、首領に限りなく忠実な共産主義革命家でなければならない②首領に対する忠実性は党と国家、人民、民族に対する忠実性の表れである③首領の遺業を受け継ぐ後継者は新しい世代から出現しなければならない④後継者は革命闘争と建設事業の実践闘争の中で首領が体現している偉大で崇高な人格を、そのまま受け継ぐ歴史的準備期間が必要である。⑤スターリンは後継者を決定、育成する準備が出来ず失敗した──ことなどを示している。
一、 尊敬する指導者金正一同志は偉大な首領のあらゆるものをそのまま受け継いだ主体偉業の唯一の後継者である。
一、 金正一同志は首領の公明な考え方、構想を実現し、首領の心配事を少しでも少なくさせるため全力を傾けている。
一、 金正一同志は党の唯一思想体系を打ち立てるため「党の唯一思想体系を打ち立てるための十大原則」を自ら作った。
一、 金正一同志は不滅の主体思想を完ぺきに体現しており、偉大な金日成主義の思想、理論の宝物庫を豊かにしていく卓越した理論家である。」（以下略）
権力者をこれだけ賞賛する文書を見ると、日本人はかなりしらける。この文章と表現を作った人も相当な「ゴマすり」だ。ただ、この文章からは、「世襲」を国民に説得するのに、相当に苦労した事実が読み取れる。偉大な息子だから後継者になるのではなく、業績と能力があることを繰り返し強調せざるをえなかった。
ということは、これだけの宣伝と作業なしには、金正日総書記の後継者も決定できないことを、意味している。
●金正日総書記はマキャヴェリスト（*11）
金正日総書記はマキャヴェリストであった。
人徳政治や人民を思う指導者象を強調する一方で、「先軍政治」を実行した。
軍に頼り、軍の力で統治を行う現実的な政治である。道徳や義理、人情による理想主義を掲げながらも、徹底した「現実主義」の手法を取った。（中略）
北朝鮮は、社会主義が崩壊する中で、なお生き延びている。米国や日本、中国を手玉に取る外交を続けている。その政治手法と外交手法は、どこから学んだのか。
金正日総書記の統治スタイルと外交手法は、明らかにイタリアの政治家「マキアヴェリ」の教えに従っている、と思えるのだ。金正日総書記は、間違いなく「マキャヴェリスト」である。
マキアヴェリは、いまからおよそ五百年以上も前の1469年に、イタリアのフィレンツェで生まれた。権力と統治の本質について書いた。「君主論」で、世界に知られる。初めて、現実主義の政治手法を説いた政治思想家であった。
金正日総書記の政治手法は、マキアヴェリの教えをそのまま取り入れているのである。
金正日総書記は、前述した2000年8月の韓国マスコミ社長団とのインタビューの中で、マキアヴェリの教えと同じ発言をしていた。日本や韓国のマスコミでは、大きく取りあげられなかったが、「金正日政治」を雄弁に物語る言葉があった。
それは、
「私の力は軍から生まれる。国家財政がいかに困難であっても、国防力の強化は少しも譲歩できない」
という発言である。
「力は軍から生まれる」
これは、金正日総書記の統治手法と、北朝鮮が崩壊しなかった理由を十分に説明している。これこそが、「先軍政治」を支える言葉である。
さらに、
「人民が食事もろくに取れず、他の国民のように安楽な生活をできないことを知ってはいたが、国家と民族の尊厳と運命を守るために、人工衛星発射に資金を投入した」
とも、述べた。
これは、マキアヴェリが「君主論」で述べている言葉と、同じである。
これらの発言は、北朝鮮が社会主義を放棄し、軍国主義、軍事独裁国家に変質したことを意味する。社会主義や共産主義では、軍は常に「共産党」の下部機関であり、党の指導に従うことを原則としている。共産主義的な「文民統制」である。しかし、北朝鮮の先軍政治は、「軍が党に優先」する方針を打ち出したのだ。
この発言には、軍事力こそが国力である、との考えがはっきり出ている。経済力や自由と民主主義が国力である、との現代的な発想はない。軍事力こそが、自身の統治と体制を維持する最大の要素である、との判断だ。
これは、北朝鮮がなかなか崩壊しない理由を、よく説明している。北朝鮮は、食糧難にあえぎ、経済と産業は破綻状態にある。それでも、崩壊しないのは、軍が分裂しないからである。軍が、金正日総書記に反攻しない限り、体制は維持される。北朝鮮国内で、軍以上に強大な力を持つ集団はいないからだ。
金正日総書記は、この現実を十分に認識していることになる。（中略）
朝鮮半島の国家は、長い間中国に外交や軍事に関する権限を、制限されていた。例えば、外交権は中国に握られてきた。軍事力も抑えられた。国王や皇太子の選出には、中国の承諾が必要であった。近代では、日本の植民地にされ、自主権や参政権はもとより、基本的人権も制限された。
こうした辛く痛い歴史を克服するために、大国の属国にならないことが長年の夢であった。金日成主席が掲げた「主体思想」は、朝鮮民族の長年の希望を、十分に表現したスローガンであった。だから、韓国左翼勢力の若者たちを惹きつけた。外国軍隊の駐留を認めない北朝鮮は、中国とソ連から完全な独立を確立した国家と映ったのである。だが、その主体思想の理論を創った黄長燁元書記は、「初期の理念を失い、支配と独裁の道具として使われた」と非難している。
主体思想は、大国の国内への介入を防ぐスローガンであった。大国の思惑に翻弄された過去の反省から、生まれた。「中国派」や「ソ連派」など、大国の手先になる勢力を追い出すことを目指した。だが、主体思想は余りにも理念的であり、現実的ではなかった。「人工衛星発射」と「民族の尊厳」は、自身の体制維持のためであるという現実があった。体制崩壊を抑え、国民に指導者の威信を示すために、人工衛星の発射や核実験が必要であった。
後継者には、「偉大な業績」が必要である。それが、体制を維持する最大の要素になる。後継者に就任視して以来、金正日総書記には、「偉大な成果」がなかった。食糧難とエネルギー不足、経済危機が続いただけである。経済の再建と国民の生活回復こそが、「偉大な成果」だが、それは困難であった。だから、人工衛星打ち上げ（1998年8月）と核実験（2006年10月）を「偉大な成果」にする必要があった。
朝鮮半島の政治文化と深くかかわる問題である。韓国でも北朝鮮でも、政治における最大の価値観は「正統性」と「大義名分」、「体面」である。これは、儒教の教えに従った価値観である。これは、韓国人や朝鮮人には、すぐに理解できる理論である。日本人には、なかなか理解しがたい。
～「軍事以外の職務を持つな」～
金正日総書記の会見では、「党」や「思想」という言葉はまったく見られなかった。かつては、「党の指導」を強調し、「思想優先策」を強調していた。それが、なくなった。相手が韓国のマスコミ社長団なので、賢明な指導者像を印象付けようとしたのかもしれない。それでも、「軍事優先」には言及した。
軍の力を最重視する発言は、十六世紀のイタリアで「君主論」を書いたマキアヴェリと同じ発想である。マキアヴェリの著作を読むと、金正日総書記の発想や政治行動を手に取るように読める。イタリア統一を夢見たマキアヴェリに、金正日総書記は共感を抱いているようだ。
マキアヴェリの「君主論」と「政略論」を読んでみよう。マキアヴェリは、軍の重要さを次のように強調した。
「君主は戦争と軍事組織、軍事訓練以外に目的を持ったり、これら以外の事柄に考慮を払ったり、なにか他の事柄を自らの技能にしてはならない。それというのもこれのみが支配する人間に期待されている唯一の技能であるからである。・・・そして反対に君主が軍隊のことよりも優雅な事柄に気持ちを注ぐ時、彼らがその地位を失うことは明らかである。
・・・このように君主は戦争の訓練を決して念頭から離してはならず、戦時よりも平時において訓練に励まなければならない」（『君主論』講談社学術文庫 佐々木毅訳 121頁）
このマキアヴェリの言葉と、金正日総書記の「軍は力である」「軍事優先政治」は、驚くほど共通している。北朝鮮が軍事国家に転換した理由が、この言葉から理解できる。金正日総書記は、マキアヴェリの著作を読んでいたのではないか。
ただ、マキアヴェリは「優雅な趣味に心を向けるときは、国を失う」と警告した。金正日総書記は、軍事以外の「優雅な趣味」に関心を向けている。ぜいたく品や喜び組みへの関心が、よく知られている。
「マキャヴェリスト」という言葉には、否定的な意味が込められている。目的のためには手段を選ばない、との意味がある。マキアヴェリが、そうした記述を残しているのは、間違いない。しかし、彼の目的はイタリアの統一であった。このため、外国との侵略と干渉をいかに排除するか、という課題に答えたものであった。
「統一」と「外国の侵略排除」の悲惨な生活にも、心を痛めていた。金正日総書記が、庶民の悲惨な生活に心を痛めているとは、思えないのだ。
～非常時には時間をかせげ～
それでも、マキアヴェリと金正日総書記のあまりの類似性には、驚かされる。「君主論」と「政略論」を読むと、よくわかる。二人に共通する問題は、経済についての理解を欠いていることだ。貧しい国を発展させる。開発経済への理解と知識はまったくなかった。
次の言葉も、金正日総書記は実行している。
「国家のなかで、または外部から、つまり、その原因が内部的であろうと、あるいは外部的な誘因によるものであろうと、非常の事態がもちあがり、それがだれの目にもはっきり脅威と映ずるほど大きなものとなってきたばあい、それをなんでもかでも消してしまおうとあせるよりは、うまくあしらっておいて時間をかせぐほうが、ずっと確実なやり方だと思われるのである。それというのも、災いを押し殺してしまおうとすれば、たいていのばあい、かえってその勢いを燃えあがらせることになり、心配されていた危機を早めることになるからである」（「政略論」中央公論社『世界の名著 マキアヴェリ』267、268頁）
これは、まさに金正日総書記が危機に際してみせる、「時間稼ぎ」の手法である。
北朝鮮は、旧ソ連や東欧諸国が崩壊した時に、時間稼ぎの戦術を展開した。南北対話を再開し、「南北基本合意書」を締結した。離散家族の再会にも応じた。だが、時間がたつとこうした合意は、事実上反故にされた。
また、1994年の米朝核合意では、「核開発の放棄」を約束した。ところが、時間がたつと、核開発を再開した。2002年に、濃縮ウランによる秘密の核開発を推進していた事実が、米国によって明らかにされた。
六カ国協議でも、この手法が使われた。すぐには交渉に応じず、時間を稼いだ。2005年に米国の金融制裁が発動されると、「金融制裁の解除なしに、六カ国協議に出席しない」と主張し、時間を稼いだ。
結局は、無条件で六カ国協議に復帰したが、なお「凍結口座の一部解除なしには参加しない」と、ゴネた。
米国が、全凍結口座の解除に応じると、「凍結資金が、北朝鮮口座に入金されるまでは、復帰できない」と、さらに粘った。いずれも、みごとな時間稼ぎ作戦である。
こうして時間を稼いでいるうちに、ブッシュ政権を取り巻く状況が変化してしまった。イラク戦争が泥沼に陥り、解決の見通しが立たなくなった。国内では、イラク撤退の声が高まった。2006年の中間選挙では、議会の上下両院で、野党の民主党が過半数を握ってしまった。ブッシュ政権の外交は失敗続きだ、との批判が高まった。
この結果、ブッシュ政権は北朝鮮との対話路線に転換せざるをえなくなった。金正日総書記の「時間稼ぎ作戦」の勝利である。米国は、北朝鮮の口座凍結を全面解除したうえ、「テロ支援国家の指定」の解除を検討している。北朝鮮に振り回されっぱなしだ。
～恐怖と大事業、脅し～
マキアヴェリの次の言葉にも、金正日総書記は従っている。
「愛されるよりも恐れられる方がはるかに安全である。それというのも人間に関しては一般的に次のように言いうるからである。人間は恩知らずで気が変わり易く、偽善的で自らを偽り、臆病で貪欲である」（「君主論」前掲著136頁）
この記述は、金正日総書記の統治方法と、部下に対する扱いそのままである。北朝鮮では、指導者を批判しただけで、強制収容所に入れられる恐怖政治が行われている。多くの在日の帰国者が、強制収容所に入れられた。また、幹部になっても忠誠心が足りないと判断されれば、地方に送られる。へたをすると、強制収容所に送られる。
北朝鮮に拉致された韓国の映画監督・申相玉（シン・サンオク）氏によると、金正日総書記は、党幹部や高官が自身を賞賛する言葉を聞いて、「あれは本心ではない」と述べたという。これこそ、現実主義者の言葉である。北朝鮮の党幹部や官僚を信用しない思いが、込められている。
マキアヴェリの次の言葉にも、従っている。
「偉大な事業をなし、比類のない模範を自ら示すことほど君主に対する尊敬をもたらすものはない。・・・内政について世にも希な実例を示すことが有益である。・・・なによりも君主はあらゆる行動を通して偉大な人間で卓抜な才能の持ち主であるという評判をとるよう自ら努力しなければならない」（同172、173頁）
この考えは、金正日総書記のこれまでの歩みそのままである。後継者になるために、また後継者に決定した後も、大事業を続けた。平壌には、金正日総書記が建設したとされる建築物が、多数ある。主体思想塔や凱旋門、大競技場など数え切れないほどだ。
「核実験成功」も、北朝鮮的には金正日総書記のだい業績である。1998年の人工衛星打ち上げも、憲法改正と国防委員長再任のための大業績であった。1988年には、ソウル五輪に対抗して、国際青年祭典も開催した。北朝鮮の国内を歩けば、金正日総書記の業績で埋まっている。
ところが、こうした大事業や業績は、国家予算を食いつぶし経済の再生産には、まったく活用されなかった。マキアヴェリにも、現代的な「経済発展こそ指導者の力」との発想はなかった。マキアヴェリの「君主論」は、十五、十六世紀の統治論であり、二十一世紀に通用する指導者論ではないのである。
国民が食糧難に苦しみ、経済が破綻し、資金も枯渇する状況にもかかわらず、ミサイル開発や核開発の大事業を続けた。その一方で、北朝鮮経済は破綻に瀕したのである。
北朝鮮では、全ての成果は金正日総書記のおかげである。これも、マキアヴェリの教えと合致する。
オリンピックで金メダルを取った選手は「金正日総書記のおかげと恩恵」を語った。食糧難に対する海外からの援助食糧も、「金正日総書記の恩恵」として、配給された。米朝交渉の成果も「金正日総書記の偉大な指導の結果」である。人工衛星の打ち上げや核実験成功も「金正日総書記の恩恵」である。
マキアヴェリは、次のように述べている。
「良き助言は誰がそれをなしたにしろ、君主の思慮から生じるのであって、良き助言から君主の思慮が生じるのではないという結論になる」（同185頁）
つまり、部下がいかにいい進言をしても、それは部下のアイデアではなく、指導者が自ら考え出したことにせよという教えだ。北朝鮮では、農作業の仕方から学生の制服まで、すべて金正日総書記の英明な指導力として、讃えられるのである。
～相手に時間を与えない外交交渉～
外交交渉の戦術も、マキアヴェリの教えの通りに行われる。北朝鮮的に言えば、マキアヴェリが将軍様のアイデアを盗んだことになるかもしれない。
「君主が他人の所有になるものを手に入れようとするばあい、情況が許すなら、相手にゆっくり考える暇を与えてはならない。そしてすぐ態度をきめねばならぬような気持に追い込まなければならない」（「政略論」前掲書620頁）
これは、取引や交渉の場合は、相手に時間を与えないやり方である。日本の政治家を平壌に呼びつけ、時間を与えずに譲歩を迫った。金丸訪朝団（1990年9月）の「戦後補償」も、この手にやられた。共同声明をすぐに作らなければならない状況で、新たな要求を持ち出し、即答を迫った。日本に帰る時間は迫る。譲歩しないと、共同声明は作成されない。
拒否すればいいのに、拒否しない日本の政治家の外交と国益に関する意識が問題であった。日本の政治家の多くは、個人的な貸し借りの「国会対策手法」と「国益」をはきちがえる。この政治家の対応が、対北朝鮮外交をめちゃくちゃにしてきた。
2007年の六カ国協議でも、「相手に時間を与えない作戦」を展開した。六カ国協議が開かれた北京に来ているのに、「口座凍結が解除されない」として出席を見合わせた。米国は、2005年に北朝鮮の偽ドルやマネー･ロンダリング行為を理由に、金融制裁を実施した。マカオの銀行、バンコ･デルタ･アジアにあった五十の北朝鮮関連口座が凍結された。
北朝鮮は、当初は「金融制裁が解除されない限り、六カ国協議には復帰しない」と主張した。それが不可能だと知ると、参加した上で「違法でない口座の解除」を求めた。米国は、違法でない一部口座の解除に応じた。
ところが、次には「全口座の解除」をしないと、六カ国協議に参加しないとゴネた。六カ国協議は再開されたのに、これではまた中断になる。あわてた米国代表は「全口座の凍結解除」に応じた。ようやく六カ国協議が始まると、「まだ入金していない」と、協議を欠席した。米首席代表は、またまた入金実行のために走り回された。
六カ国協議を開かせておいて、相手に時間の余裕を与えない交渉を展開した。こうした北朝鮮の手法は、今に始まったものではない。アメリカの担当者が、きちんと学習していないのだ。
北朝鮮は、なお「外交の戦術面」ではマキアヴェリの教えに従い、成果をあげている。
●北朝鮮への異常な支援
①コメの援助（*2）
コメの援助についても、その目的は金である。北朝鮮へ送られたコメは、村山時代の平成７年における六月の１５万トンと１０月の２０万トンを手始めに、平成９年１０月に６・７万トン、そして平成１０年８月にテポドン発射が有ったにも関わらず、平成１２年には河野洋平のゴリ押しで三月に１０万トンと１０月に５０万トンが贈られている。平成１２年だけを見ても、３月の１０万トンの費用は９９億円、１０月の５０万トンに至っては１，１７５億円の国民の血税が北朝鮮へ無償援助されたことになる。（なお平成８年には現金で６００万ドルの資金援助を与えている。）これら日本が援助したコメの一部は日本の商社が安く買い上げて金にしており、石原慎太郎氏が「援助のコメの半分は商社が買い上げて、そのリベートが自民党有力議員に渡っている。その議員達の名前も分かっている」とＴＶで発言されたことはご記憶のことであろう。国民が不況に苦しみ国家財政も大赤字の只中に、その状況下で１，２００数十億円もの国費を使って北朝鮮に無料でコメを贈る目的が、親朝派政治家が私腹を肥やすことにあったことを国民は知っているのだろうか。
平成１２年の５０万トン支援の際に河野外相は「責任は私が取る。これは必ず日朝関係にプラスになる。それは私が保証する」と断言し、さらに鈴木宗男や「ムネムネ会」メンバーがそれを後押しして「コメを出せ」と騒ぎ、この当時国連ＷＦＰ（世界食料機構）が飢餓救済のために支援するとした１９万５０００トンをはるかに上回る５０万トンを日本一国で贈与する結果となった。しかも安い外米を使えば同じ５０万トンでも約２００億円で済むのに、「安いコメだと失礼だ」とかいう訳の分からない理由で国産米を贈ったために、余計に１，０００億円もの国費が浪費されることになった。国産米にこだわるような不可解な行動の裏を推察するには「それによって誰が儲けたか」を考えれば良い訳で、つまり備蓄米を大量に余らせていた農業団体と、その国産米を北朝鮮から安く買い上げて国内で正価で再販売した商社、そしてこれら利益を得た先からリベートを得た政治家である。そして損をしたのは、１，２００億円もの血税を敵対国に注ぎ込まれた日本国民である。「私が責任を取る」と言った河野は何の責任も取らずに、それどころか衆議院議長におさまっている始末なのだ。
北朝鮮に限らず海外への経済援助は１０％程度の直接キックバック、さらに付随して利益を得る企業から政治家への多額の裏献金という構造ができあがっており、一兆円ともいわれる北朝鮮への戦後補償には５００億円のキックバックが密約されているという説もある。北朝鮮と国交がなくても日本は困らないのに、金丸訪朝以降、この巨額のキックバックに喉を鳴らす与党議員が何度も何度も不可解な訪朝を繰り返してきた背景がお分かり頂けたであろうか。
②朝銀の救済措置（*2）
朝銀の救済に一兆四千億円もの国費が投入されることになったが、日本の国家予算一般会計は平成十四年の場合八十一兆円である。大赤字で国債乱発する中で、八十一兆円の内の一兆四千億円を在日朝鮮人のためだけに存在している朝銀に投入するという、その裏を想像してみて頂きたい。一口に一兆四千億円といっても私たち庶民にはピンとこないが、例えばそれだけの金を一万円札でたてに積み上げていけば富士山の五倍近くの高さになる莫大な金額である。なお、これはまだ未確認なので実名は伏せるが、朝銀への公的資金投入の見返りに、朝銀東京から五十億円が親朝派の某大物政治家に流れたという情報がある。ちなみに朝銀公的資金投入の手始めとなった平成十年の朝銀近畿への三千百二億円投入について、櫻井よしこ氏が自著の中で「当時の状況を取材する中で、関係者がほぼ例外なく、関与していた人物として名前をあげたのが野中広務氏だった」と述べておられることも付記しておく。
そもそも朝銀は正規の金融機関ではなく、朝鮮総連の参加団体である朝信協（在日本朝鮮信用組合協会）が統括しており、つまり朝鮮総連という任意団体が会員向けにつくった金融部門にすぎない。朝銀は数千億円ともいわれる北朝鮮への莫大な闇送金により核ミサイル開発や拉致工作などの資金的背景になり、さらにメチャメチャな乱脈経営・不正融資で破綻したのであるから、この朝銀を救済することが一体何の日本の利益になるのだろうか。現にこの最初の公的資金投入の約三ヶ月後には、北朝鮮から「領収書」代わりに発射されたテポドンが日本上空を飛来している。結局、コメ援助も朝銀救済もすべては親朝派政治家の利権のためなのだ。朝銀から北朝鮮本国へ闇送金された金はおよそ六千億円にも上ると推定されている。この朝銀に日本の国費を注ぎ込んで穴を埋めるということは、日本が北朝鮮に六千億円送金したことと同一である。つまり朝銀公的資金投入は、結果的に北朝鮮の核を日本人の税金でつくったことを意味する。
③朝鮮総連について（*2）
最近でこそ減りつつあるも、朝鮮総連・朝銀・朝鮮商工連合等から北朝鮮へ流れた金は年間八百億円ぐらい、在日朝鮮人の合弁企業などが持ちこむプラントなどを含めると年間六千億円ぐらい、さらにバブル最盛期に至っては年間二千億円以上が流れていたと推定されている。これは北朝鮮の国家予算の三倍近い金額である。今金は、万景峰号は勿論のこと、年間に千四百～千八百回ぐらい日本に入出港している約百五十隻の北朝鮮船舶で運び出されていた。北朝鮮に経済制裁を加えるのであれば、万景峰号のみならず、これらの船舶すべてを入港禁止にする必要があるだろう。
ちなみに東京本部千代田区富士見町の朝鮮総連本部ビルは、地上十階地下二階の巨大ビルである。朝鮮総連はこれまでこの本部ビルを始め全国の多数の施設について、固定資産税(東京都下だけで年間一億円)を納付してこなかった。この発端は、金日成との会見で「社会主義国、朝鮮民主主義人民共和国をうらやましく思う。資本主義の負けは明らかです」と語った左翼の美濃部東京都知事（社共が支持母体）が免除したからである。石原都知事になって初めて課税がなされ、朝鮮総連本部が差し押さえられそうになり納税が実行されたが、あまりにも遅きに失したとしか言えない。ちなみに2003年8月28日付の朝鮮労働新聞は「極度の軍国主義狂信者として悪名高い東京都知事石原は、"税金を納めないなら総連施設を強制的に差し押さえする"とまで暴言を吐いた」という記事を載せているが、全国民の戦闘員下や全国土の要塞化など軍事をすべてに優先させている「先軍政治」の北朝鮮が、石原氏を「極度の軍国主義狂信者」とはもはや噴飯もののギャグだ。しかも納税しないと差し押さえを受けるのは日本人でも同じであり、一体どこが「暴言」なのか訳が分からないが、要するにこれまで朝鮮総連を治外法権のアンタッチャブルにしてきた為に、当たり前のことが通用しなくなっているわけだ。
加えて朝鮮総連は、昭和五十一年に社会党代議士の協力を得て国税庁に圧力をかけて「団体交渉」、即ち事実上の脱税を合意させてきた。この組織的脱税については平成十一年の参議院予算委員会で鴻池祥肇議員が取り上げ、国税庁が「合意なし」通達を職員に出すことで現在は事実上の撤回となっている。しかし総連系企業が所得税を脱税することでバブル期にいかに巨額の金が北朝鮮へ送金されたか、東京の巨大な本部ビルが如実に物語っている。
●不可思議な行動
①拉致問題に関する証言を行う亡命した黄長燁氏の来日に絡んで(*2）
金正日の側近であった黄長燁元党書記（韓国に亡命中）は、平成十五年七月に拉致議連の招待で訪日して国会で証言することになっていた。しかし同年七月十日、毎度おなじみの親中朝派の某大物代議士から自民党国対委員会に圧力が加えられた結果、この訪日は中止されてしまった。黄氏が日本で証言すると、かつて国交正常化交渉などで訪朝した際に金や利権の供与を受けていた日本の政治家たちがその実名を暴露されることを怖れたのだ。この北朝鮮利権に関わる親朝派の政治家は、超党派の日朝友好議員連盟や共産党系の日朝協会などに名を連ねている。日朝友好議員連盟の幹部は、毎年平壌を訪問し、金日成の像に深く敬礼し、喜び組みに奉仕される宴会で金正日に乾杯し、帰国後も朝鮮総連から利権や裏献金を得てきたのだ。有権者は、選挙区の議員がこの議連に名を連ねているか否かを選挙の際の判断材料とするべきである。
②北朝鮮の崩壊を踏みとどまらせたもの（*2）
北朝鮮は１９９８年までに事実上崩壊しかけていた。三百～四百万人が餓死し、軍隊にも配給が届かなくなり、金正日は中共かロシアに亡命を検討していたという複数の証言もある。ところがそこへコメを贈って金正日の体制を延命させたのが、日本の河野洋平・加藤紘一と韓国の金大中であり、そしてこの日韓の親朝派による金正日体制延命を黙認していたのがクリントン政権であった。何しろ金大中は「ノーベル平和賞を金正日委員長と共同受賞できれば良かったのに。（金正日に）申し訳ない。感謝する」とコメントしていたぐらいであり、金正日にノーベル平和賞とはブラックジョークかと思うが、何と本気の大真面目の発言なのだから阿呆にも程がある。こんな認識の人物が提唱してきたのが「太陽政策」であり、要するにモノやカネを与えてひたすら金正日のご機嫌を取ろうという政策である。なお韓国の刑法百九条では「外国の国旗への冒涜罪」が規定されているが、これまで幾度も日の丸が焼き捨てられてもこの対象にはならず、盧武鉉政権下では星条旗を焼き捨てても誰もお咎めなし、しかし北朝鮮国旗を燃やした事については盧武鉉自らが北朝鮮へ謝罪している。アメリカは共和党政権誕生によって対北政策を一変し、日本も拉致事件の影響で対北強硬派が発言力を得るようになったが、韓国だけは、金正日との「面会」を金で買った如き金大中路線そのままの馬鹿げた「太陽政策」が今も続けられているということだ。
韓国のこの「太陽政策」の破綻はもはや明白であり、日本が北朝鮮に対して探るべき対策とは、日本海へのトマホーク配備を含めた完全な防衛体制を構築しつつ、あらゆる手段の経済制裁を断固として課し、その一方で「核・生物兵器・化学兵器・弾道ミサイルの廃棄並びに、被拉致日本人とその家族の全員返還を完全履行した時に、制裁を解除して経済援助を行う」と通告することである。しかしその経済援助は人道的な使途に限定し、日米より派遣される厳密な監視のもとに行われることが前提となる。
経済制裁については日朝間の貿易を停止できる外為法改正が成立した事は大いに評価できる。平成十四年までは日朝間は輸出入合わせて年間約五百億円の取引があり、拉致問題が表面化して以降はやや減ったとはいえども、平成十五年はまだ三百億円強の取引がある。日本から見れば対朝貿易額は全体の１％以下だが、北朝鮮から見れば日本は中共に次ぐ代位二位の貿易相手国であり、朝鮮総連から送金されるカネも合わせて、このルートは生命線なのである。なおこの外為法改正阻止のために朝鮮総連は、社民党そして自民党の古賀誠に再三陳情をかけていた。古賀誠という人物は野中広務の握っていた中朝利権を継承し、今や中朝両国が絡む利権のボス的立場に立っており、小林よしのり氏が自著でこの古賀誠を愛国者だなどと誉めていたがとんでもない誤解である。ともあれ外為法改正に加えて、出国した在日北朝鮮人の再入国拒否、朝鮮総連への破防法適用、その他経済制裁の手段は無数に存在している。
●「朝日新聞・朝鮮版」が報じていた「大日本帝国下の朝鮮半島」近代化の真実
（「SAPIO-2007.11.14」から ジャーナリスト水間政憲氏）《本文中に現れる”写真”について、現在は入っていません。》
常に外交において「歴史カード」を突きつけられる日本にとって、歴史を正しく評価することが今ほど大切なことはない。時には植民地統治の「功」の部分を強調してみせる必要もあるだろう。実はあの朝日新聞がその手助けとなる。貴重な発掘資料をレポートする。
福田首相は10月初旬に南北首脳会談のためピョンヤンを訪れた盧武鉉大統領に、金正日総書記へ「過去を清算し日朝国交正常化を実現させたい」とのメッセージを言付けたという。「過去の清算」とは北朝鮮にとっては植民地支配への謝罪とともに巨額の経済援助を日本から引き出すことに他ならない。
しかしこれはおかしな話だ。02年9月17日、小泉首相と金正日総書記が交わした日朝平壌宣言では「両国及びその国民のすべての財産及び請求権を相互に放棄する」ことに同意している。
さらに、ＧＨＱの試算では、北朝鮮に残した日本政府と民間の資産は462億2000万円。これは現在の物価で8兆7800億円相当にあたる（『産経新聞』02年9月13日付）。
交戦国ではなかった北朝鮮に残した日本資産の請求権は国際法上認められているが、平壌宣言によって日本は請求権を放棄したのである。国交正常化にあたって「金」を支払う必要などどこにもない。
以上は北朝鮮の話だが、韓国も含めて朝鮮半島における日本植民地統治時代が残した遺産とはいかなるものだったのか。外務省が把握している終戦時の朝鮮半島における日本の資産は702億5600万円となっており、現在の物価で13兆3486億円に上る（1945年8月15日時点の朝鮮在外財産評価額）。
今回筆者は、国家図書館に眠る貴重な史料を発掘した。日本が朝鮮半島を植民地統治した1910（明治43）年の5年後、1915（大正4）年から1945（昭和20）年まで発行された朝日新聞の「朝鮮版」である。当時は『大阪朝日』の地方版として朝鮮西北版、南鮮版、北鮮版、西鮮版、中鮮版、鮮満（朝鮮・満州）版などが存在していた。研究者の間では植民地統治の真実を語る上で「幻の史料」とも呼ばれ復刻もされているが、まだ一部であり、今回、戦後初めて読者の目に触れる記事も多い。
本稿では、これら「朝鮮版・朝日新聞」に掲載された記事を中心に現在も朝鮮半島で社会インフラとして利用されている日本の｢遺産｣を紹介する。
～「処女列車は走る試運転は上首尾」～
先の南北首脳会談では、南北縦断鉄道・京義線の輸送を開始することや開城・新義州間の鉄道の共同補修を南北共同宣言で謳い上げた。これらは元々朝鮮併合前の1899年に始まった鉄道整備計画によって作られたものだ。鉄道は国家の基本インフラと言っていい。記事から当時の様子を拾ってみよう。
＜処女列車は走る 愈よ開通の京慶線永川・友保間 試運転は上首尾＞
「大型機関車両に連絡の二等車両、食堂併用の三等車一両、計二両の試運転列車はすがすがしい朝陽を浴びて午前八時三十六分大邱駅を出発、（略）列車は坦々たる畑中の直線コースを邁進している、（略）この開通によつて今後の輸送に期待するところが多い」（『大阪朝日・南鮮版』1938年12月1日付）
＜京慶線を一部電化 明年度から工事に着手＞（同1938年12月10日付）
ＪＲ北海道の一部（小樽─滝川間）が電化されたのは、1968年のことだった。北海道に電車が通ったのは朝鮮半島の30年後なのである。それらに付属した駅舎も豪華版で、東京駅よりも重厚な佇まいの京城駅(写真①)は、<竣工した京城駅＞
「既にほぼ工事の落成を告げている新築の京城駅開通式は来る十月十三日朝鮮神宮に奉納すべき宝物が京城に到着する当日を以って盛大に挙行せらるる予定である」（『大阪朝日・朝鮮朝日』1925年9月25日付）と報じられている。
国有鉄道と私設鉄道は朝鮮半島全域に及んだ。1937年1月までの国有鉄道の総延長は3575.9km、私設鉄道は1463.6kmとなっており膨大な鉄道網が敷かれたのである（『半島の近影』朝鮮総督府鉄道局、1937年刊）。
最近、朝日新聞は戦時中の新聞報道は、大本営発表、政府寄りで真実を伝えていなかったなどと自ら釈明している。たしかに当時の新聞を今眺めると「光」の面が強調されすぎている嫌いはある。しかし、「地元新聞」に「嘘」が報道されたのであれば、日本語教育を受けていた現地の人々は当時でも問題にしていたであろう。また史料を渉猟しながら筆者は、新聞による「宣伝」の面を考慮してもあまりある「事実」が存在していると考えざるを得なかった。
～本土と同等の教育を実施～
物資輸送で鉄道と対をなす港の整備も実行された。<仁川築港工事竣成式>
｢工費四百円を投じたる仁川築港、（略）自転車競争及び仮装行列其他の催しあり未曾有の賑わいを呈せり｣（『大阪朝日･鮮満版』1918年10月29日付）
北朝鮮の羅津港、清津港（写真②）なども日本時代の築港だ。『大阪朝日・南鮮版』1938年12月13日付によると、羅津港は3000万円を投じ、はじめから遠距離貿易を予定して埠頭も広く、清津港、雄基港以上に近代的な港だったという。今となってはなんとも皮肉な話ではあるが、羅津港は中国に50年の租借件を獲得され中国の"北朝鮮植民地化"の象徴となり、清津港は対日工作の拠点となっている。
「富国強兵」の名の下の工業発展も「光」の部分として有名だが、韓国だけでなく北朝鮮の工業発展に決定的な影響を与えたのは当時、世界一、二の規模を誇った水豊ダム発電所の建設である。これによって1941年から北朝鮮の送電が始まっている。その他にも当時の記事は、<絢爛たる化学工業 北鮮各地に勃興す>
「東洋のイー･ゲー(当時のドイツの大手化学会社)を思はす興南朝窒工業を中心として絢爛たる化学工業の花を咸南各地に満開せしめている野口コンツエルンの躍進も、日本鉱業をトップとして幾多の資本系統によって開掘されんとしている」（『大阪朝日・朝鮮西北版』1936年10月1日付）
と工業発展を遂げる熱気を伝えている。朝窒（朝鮮チッソ）は当時世界最大の窒素工場だったことは戦後の史料でも数多く評価されているところだ。
公衆衛生の向上も近代都市インフラの大切な柱だ。<平壌の臭気一掃 愈よ糞尿地下タンク新設>
「府内の糞尿は現在府内大馳嶺里の貯蓄場にためているが（略）、大都市としての面目上問題であり、矢野平壌府尹（ふいん）も先般内地六大都市の糞尿処分施設を視察し原始的な府の処置について改善意見を持つに至ったので糞尿地下タンクを新設する」（『大阪朝日・朝鮮西北版』1938年12月11日付）
学校教育は、近代国家の礎であり、欧米諸国と日本の植民地政策の決定的な違いは、本土と同等の教育を植民地でも施したことにある。戦後は｢内鮮一体｣の施政の負の面ばかりが強調されるが、この点も再評価されるべきであろう。例えば最高学府の帝国大学を植民地にも設立した。
京城帝国大学（現在は文化関連団体が入居。写真③）は1924年に設立され旧帝国大学（9校）の中で6番目だった。
当時の記事はこう伝えている。
「目下京城府東崇洞に新築中の京城帝国大学の工事もその後順調に進み来年四月の開校日までに竣成するのは大学予科の卒業生法文科八十名と合わせて百六十名を収容すべき校舎だけで、なほ十五年度には五十万円の予算で図書館、心理学教室、医学部本館および講義室を（略）完成する」（『大阪朝日新聞附録・朝鮮朝日』1925年9月27日付）
日本統治時代の朝鮮半島には、1924年までに、法学専門学校、高等工業学校、高等商学校、高等農林学校、師範学校、官公立中等学校など148校が開校していた（『朝鮮年鑑』大正15年度版）。
～「記念碑的建造物」としてソウルに残る日本建築～
各記事のマイクロフィルムや当時の写真集を総覧して目につくのは、学校、銀行、裁判所などが次々と建設されていることだ。歴史的建造物として残され今も利用されている。
例えば韓国政府は、1995年に朝鮮総督府庁舎を殖民統治の負の象徴として解体したが、現ソウル市庁舎(写真④)は旧京城府庁舎をそのまま使用している。<新築の京城府庁舎 工事着々と進行す>
「鉄筋コンクリートで四階建平面山字形をなし正面二十八間（約50m）、（略)高さ百八十尺(約36m)の塔屋を設くる等真に半島有数の大建築である）（『大阪朝日新聞附録・朝鮮朝日』1925年9月27日付）
また現在、ソウル市立博物館に転用されている元高等法院は1908年に開庁している。
「併合前は司法と行政との混淆が甚だしく、裁判はすべて行政官が之を行ひたるのであるが統監府時代に全然行政事務より切り離され現在は地方法院（内地の控訴院）高等法院（内地の大審院）の三階級とし司法制度は確立せられ」た（『大阪朝日新聞』1924年5月25日付）。
つまり国家の基本である三権の一つがこの時確立されたのである。
「反日」として名高い現在の韓国紙さえも「新世界百貨店旧館は『韓国流通史の記念碑的建造物』」（『朝鮮日報』ネット版06年9月26日付）と評価せざるを得ないのは旧「三越」（写真⑤）である。現在は韓国資本に渡り「新世界百貨店」となっている。隣に新館が造られているものの旧館を「韓国では例を見ない工法」（同）まで使って、大改修工事を行い、07年12月に当時の建物を残してリニューアルオープンする予定らしい。三越は1906年に「京城出張員詰所」を開設してから朝鮮半島に進出し、1929年に「三越京城支店」を開店している。
今回紹介できた史料はごく一部にすぎない。国会図書館に所蔵されている膨大な史料を冷静に分析すれば、戦後言われているような朝鮮半島統治時代のイメージは一新されるのではないか。日朝交渉が国交正常化と経済援助を両天秤にかけて進められようとしているいま、北朝鮮の罠に嵌らないためにも「殖民統治の評価」＝「過去の清算」はしっかりとした史料のもとに日本側の理論を構築することが急務である。
●その他
①情報漏洩（１）（*2）
米国ハドソン研究所の発表によれば、テポドンやノドンを製造する機械や部品の九割以上は日本製であり、朝鮮総連や総連系企業などの手で、日朝間を年三十回往復する万景峰号によって、北朝鮮へ運びこまれていたものである。核開発についても協力したのはロシアや中共の核技術者だけではなく、日本人でこれに協力した人間が多くいた。いや、今もいる。平成二～三年にかけて東大生産技術研究所にいた日本人研究者三人が核技術や超伝導技術・ステルス塗装技術を北朝鮮へ渡し、公安当局からも「北の技術スパイ」と認定されたのに、金丸信や自民党左派との圧力により逮捕は見送られている。（ちなみに金丸訪朝は平成二年九月である。）さらに北朝鮮籍のままで国公立大学の研究員や講師となって、核物理学を専攻していた人間も多く万景峰号で北朝鮮に行き来していた。
旧社会党・現社民党が朝鮮労働党と友党であるのは公知の事実だが、社会党は昭和三十年代以降に朝鮮総連から莫大な献金を受け取り続けてきた。一例だけ挙げれば、土井たか子が委員長に就任したパーティーでは、総連スポンサーであった訳で、土井たか子らが小泉訪朝までは「拉致は右翼のでっちあげ」だと主張してきたのも至極当然のことなのだ。なお、「土井たか子が実は帰化した在日朝鮮人で、土井の実姉は朝鮮労働党幹部と結婚して平壌に住んでいる」という説が巷で飛びかっているが、読者がおそらく推測されるとおりである。これに関しては昭和六十二年の訪朝時に土井たか子が金日成に「自分の家に帰ったようです」と述べている事実を付記しておこう。また拉致に協力する秘密部門が旧社会党内にあったという証言が「正論」誌その他に載ったが、これも真偽は分からない。しかしもしデタラメならば、共産党と並ぶ訴訟大好き政党の社民党が、出版差し止めの告訴を行わなかったのは何故か。より広く国民に知られると何か困ることがあるのか。社会党と共産党はソ連からも莫大な金額の資金援助を受け取ってきたことが、ＫＧＢ公文書やレフチェンコ証言で判明しているが、こんな連中には自民党の汚職云々と批判する資格さえもない。
昭和五十二年といえば北朝鮮に統一戦線部が設けられて日本人拉致が本格化した年であるが、その翌年五月に訪朝した飛鳥田社会党訪朝団は、朝鮮労働党との共同宣言で韓国の朴政権を｢朴正煕かいらい一味のファッショ的暴圧と人権じゅうりん行為｣と批難し「日本政府が日韓条約を破棄」するように要求し、さらには「米帝国主義と南朝鮮反動勢力が南朝鮮で強行している新たな戦争挑発活動」とするところの在韓米軍を即時無条件撤退せよと主張していた。もしこの社会党と北朝鮮の共同宣言どおりになっていたら、北朝鮮は中共軍の支援で即座に南侵しており、今頃は韓国という国は存在していないであろう。この共同宣言こそが社会党という政党の本質を如実に示すものである。
②情報漏洩（２）（*2）
平成十三年十一月二十九日、警視庁捜査二課は朝銀横領事件に関連して朝鮮総連中央本部ビルを家宅捜査した。しかしこれも親朝派の某大物政治家（自民党）が朝鮮総連に事前に情報を流しており、三時間捜索した結果、押収できた資料はダンボール二箱だけ、しかもその内の一箱は何故かカラで、もう一箱は半分量のみであった。押収が一箱だけでは格好がつかなくて仕方がなく演出したのだろう。この家宅捜査の際、本部ビル前には四百人以上の在日朝鮮人が集結して機動隊員を怒鳴りつけパトカーを蹴るなど、朝鮮総連の暴力性が露呈した光景が展開した。ところが同年十二月七日、朝鮮総連副議長ら八名の総連幹部と共に、社民党の渕上貞雄副党首と金子哲夫代議士が警視庁捜査二課を訪れ、「強制捜査は不当な政治弾圧」「過ちを認めて総連に公式謝罪せよ」「逮捕者を即時保釈せよ」という抗議文を手渡している。この金子にいたっては直後の在日朝鮮人中央大会に出席して｢捜査の名を借りた人権侵害・民族差別は許されない｣とスピーチしているぐらいだ。
また翌年の平成十四年二月十日には「日朝友好と日本の自主平和をめざす集い」なる集会で、社民党の深田肇代議士は「訪朝して金日成主席から反帝・自主・自衛の路線を学びました。今年こそ主体（チュチェ）思想や朝鮮に学んで、新しい日本・世界をつくっていきたいと思います」と述べている。金正日独裁の北朝鮮に「学んで」というからには、社民党はこの日本を「先軍政治」を掲げる強制収容所と餓死者だらけの麻薬密造国家にしたいのだろうか。それならばいっそのこと、離島に社共両党と左翼だけの反帝人民共和国をつくって独立すればよい。
③情報漏洩（３）（*2）
これまで社会党は長年に渡り「朝鮮半島の唯一の国家は朝鮮民主主義人民共和国であり、韓国は国家として認めない」と主張してきた。1988年のソウルオリンピックまでは、社会党議員は北朝鮮の許可なく韓国を訪問してはならないという決まりまで有ったのだ。北朝鮮をスポンサーとして金親子に従属し続け、警察捜査までも圧力をかけて打ち切らせようとする、まるで「朝鮮労働党日本支部」のような政党が日本社会党であった。北朝鮮に「死亡｣扱いとされた有本恵子さんの母親、有本嘉代子さんは「土井さんは、はっきり言って国賊です。国民の前で謝るべきです。そんな人に投票する人の気がしれない」とコメントしておられるが、土井たか子は今だ何の反省もなく社民党惨敗の理由は「二大政党の間に埋もれたこと」だけだと表明していた。馬鹿と売国奴につける薬はない。
朝鮮総連の元財政副局長の韓光煕氏はその内部告発著書の中で、社会党以外にも自民党の中では故金丸信（先祖は朝鮮人）・野中広務・山崎拓・加藤紘一らが朝鮮総連と特に密接な関係にあったとも述べている。加藤紘一は金容淳直属の北朝鮮工作員である吉田猛を秘書にしていたぐらいであり、家宅捜査された金丸信の自宅からは北朝鮮製の金塊の山が発見されている。金丸の親族と親朝派の大物政治家が組んで川砂利などの北朝鮮利権で大儲けしてきたことも知る人ぞ知る公知の事実だ。金丸訪朝の翌年には野中広務が西松建設(金丸と姻戚関係)を中心とする五社のゼネコン幹部を引き連れて訪朝し、北朝鮮のダムや道路や港湾を視察して回っている。つまり金丸の約した｢戦後賠償｣なるものが実行された時のインフラ利権を漁るための下準備に行ったのである。もし金丸の目論見どおりに国交回復と経済援助（八十億ドルの金丸密約）が実行されていたとすれば、ゼネコンは大儲けして政治家にもゼネコンからのリベートが流れていたわけだ。元警察官僚の平沢勝栄代議士は自著の中で、金丸信が警察庁に圧力をかけて朝鮮総連への家宅捜査を見送らせたことがあると明らかにしておられるが、実に嘆かわしいことながら与党・野党を問わず北朝鮮マネーに汚染されてきた政治家は、一般国民の想像をはるかに越えるほど多い。
●北朝鮮と日教組の関係
この『歴史を考える１』の中で『日本の将来に不安になる話』としてタイトルをリンクさせていますが、ここでは挿入部に繰り返しておくべきだと思いますので重複することをご容赦ください。
①（*2）
日教組は昭和二十七年の大会で金日成から届いた「教師は勉学を教えることよりもいかに赤い戦士を育てるかが第一義の任務だ」という祝電を満場一致で採択し、槙枝元文委員長は「北朝鮮の教育こそ理想の教育だ」とコメントしている。この槙枝元文委員長は平成三年に北朝鮮から勲章を受け、平成十四年二月には「私は訪朝して以降、“世界の中で尊敬する人は誰ですか”と聞かれると、真っ先に金日成主席の名前をあげることにしています」という文章を朝鮮総連系雑誌に寄稿し、さらに拉致が明らかになった後も平成十五年四月の金正日の誕生祝賀会に出席しているくらいなのだ。また日教組は、北朝鮮の官製教職員団体「教育文化職業同盟」とも深い関係があり、この団体に対して組合費から献金を行ってきた。この献金は当然ながら北の国庫に入り、「先軍政治」（全てに軍事を最優先するという国策）を掲げる北朝鮮であるから、その金はミサイルや核の開発、そして拉致などの工作費に充てられている。つまり日教組とは「テロ支援組織」なのだ。
②（*2）
昭和五十二年に日教組が編集した『日教組三十年史』には朝鮮戦争について「1950年、アメリカ帝国主義の朝鮮への侵略が開始された｣とある。朝鮮戦争が北朝鮮による南侵であることは歴史的事実だが、北朝鮮と連帯して日本共産化のために「アメ帝打倒」を掲げる日教組にとっては、正しい史実などはどうでもよいのだ。彼らの｢教育｣とは、反米反日と中朝賛美のためのプロパガンダでしかないからだ。日教組の関連団体の中には「日本教職員主体思想研究会連絡協議会」という北朝鮮シンパの極左団体があり、この団体は「新しい歴史教科書は反共和国（反北朝鮮）的な記述が多い。こうした動きを決して許してはならない」と、北朝鮮のために『新しい歴史教科書』を攻撃する意図を表明している。まさに「敵の正体見えたり」といったところであろう。
③（*2）
日教組から分裂した全教（共産党系）にいたってはさらにひどく、全教の音楽教師が教科書の君が代の上に北朝鮮国歌を貼り付けて生徒に歌わせていた実例があるぐらいだ。全教の勢力が強い大阪市では、在日の朝鮮人・韓国人のための「民族学級」が各地の公立学校で増え続けており、あげくに圧力に屈した同市教委は「現在八校の市立高校で行われている朝鮮語授業を二十五校全てで行うよう指導する」と発表している。一体何が悲しくて日本の公立高校で朝鮮語が必須科目として教えられなければならないのか。左翼教祖とそれに迎合する教委こそ売国奴のそしりを免れない。朝鮮民主主義人民共和国という国名はブラックジョークのようだが、共産党が系列下の運動名にやたらと「民主」と冠を付けるように、左翼教師たちは共産党独裁が民主なのだと信じこみ、子供たちの頭も赤くしようと洗脳してきた。このような日教組教育で育ち、自虐史観にまみれて罪の意識を持ち、または共産主義への憧れから北朝鮮への幻想を持ち、または拝金主義にまみれてカネ目当てで朝鮮総連とつながっている、このような売国奴たちがあまりにも多い。
※（補足）（*2）田中正明氏の言葉
かつてレーニンは「革命のためには祖国を呪詛する青年をつくれ。"自分の祖国は恥ずかしい国だ、こんな国は革命しなきゃだめだ"という感情を持たせることが革命への道だ」と語りました。また日本共産党の志賀義男は、党の武装闘争（暴力革命）路線を批判して「武装闘争などする必要はない。革命は教育で達成できる。共産党が教科書を書き、日教組の教師が子供を教育すれば、三～四十年後には日本を支配する政治家はみんな共産党の考え方に近づいてくる」と述べています。
今の四十代から六十代の政治家・官僚・マスコミの幹部等はみな青少年期に、日教組教育を存分に刷り込まれて育った世代です。戦後日本の文教をダメにしてしまった元凶は日教組なのです。ソ連の崩壊や冷戦の終結など国際情勢の変化もあり、今日では日教組も二つに分裂し、その組織率も33.7％（日教組）と9.8％（全教）に下降しましたが合わせれば43.5％、まだ半数に近いのです。こうして細川「侵略戦争」発言、村山「謝罪」談話、衆議院「謝罪」決議あたりから政治の自虐性は一層加速していき、土下座外交を国是として、中共の朝貢国への道を突き進んでいます。
加えて、ソ連崩壊後の左翼陣営のインテリは、レーニンの言葉どおり祖国呪詛の反日主義に鉾先を転じ、悪意というよりむしろ敵意をもって、日本を誹謗する歴史教育とその教科書の編集に専念しました。かつての凶悪犯罪や小中学校不登校生の激増など、歪んだ社会を創っているのです。国家意識も国家目標もなく、自国に対する誇りも希望も持てない、それはまさしく民族意識の衰退のときです。
省みるに私は、すべては祖国のために士魂一筋に生き、悔いなき人生を過ごしてきました。その私も数えて九十四歳となり、遠からず松井石根大将やパール博士の御許に参ることでありましょうが、その前に少しでも日本再生の曙光をこの眼で見届けていきたいと切に願うものです。
「日本民族よ目覚めよ、同胞よ奮起せよ、日本を亡ぼす勿れ」
私の遺言は、まさにその思いに尽きるのです。
●[特別読物]「日教組60年史」の書かれざる一章（「週刊新潮-07.7.12」から）
日本教職員組合（日教組）が結成60年を迎えた。当初は教育の発展を目指す団体としてスタートしたが、やがて逸脱し、勤評反対闘争など、激しい闘争を繰り返すようになっていった。まさに教育荒廃の元凶となったわけだが、今回発行された60年史には決して出てくることのない、書かれざる一章を紹介する。
日教組の結成大会は昭和23年6月8日、奈良県橿原市で代議員854人、傍聴人2000人余りを集めて催された。ステージの天井から吊り下げられた垂れ幕には、
＜教育を復興し、明るい日本を作れ＞＜国庫支弁により六・三制を完全実施せよ＞
といったスローガンが並ぶ、そのなかに、
＜教育界から戦犯人を追放してファシズムを打倒せよ＞という垂れ幕も混じっていたが、実は、このスローガンこそ、今もって誰もが口を閉ざす戦後の教育界のタブーなのである。
日教組は結成60年にあたり、『日教組60年/ゆたかな学びを求めて』という冊子を作成しているが、そこでは終戦直後、教育界を巻き込んだ"事件"にはまったく触れられていない。
昭和20年10月、ＧＨＱは占領政策の一環として、教育界から、戦前の戦争協力者と戦後の占領政策に反対する教員の追放を命じた、「教職追放」を表明した。
「昭和21年から27年4月28日に日本が独立するまで、"好ましからざる教師"が『教職適格審査』機関に告発され、裁判を受け、追放されていったのです。各都道府県に審査委員会が設けられ、当時、70万人いたすべての教員、教育関係者について裁判が行われました」
こう語るのは小林正氏。元神奈川県教職員組合執行委員長で、元社会党参議院議員である。現在は日教組を離れ、民間教育臨調の教育制度部会長を務める。
「密告が横行しました。組合が"自分の学校の校長が、戦前ああしただの、こうしただの"と積極的に占領軍に通報したのです。旧悪を暴露して同僚を売ったわけですが、ＧＨＱもまた密告を奨励しました。その結果、全国で5211人の教員が教育界から追放されました。その時、裁判に嫌気がさした11万5778人の教員が自ら去っていきました。70万人のうち実に11万人です。ただでさえ、6･3制の採用で義務教育が9年になり、教師不足の時期にです。戦後教育が最初に受けたダメージでした。教職追放は日教組結成以前から行われていたこととはいえ、日教組が引きずる負の遺産といえるでしょう」
教師が教師を売る──。占領下とはいえ、何とも暗く苦い出来事だった。その結果、左派の教員が幅を利かせるようになったという。しかし、それでも当時の日教組には戦前の教員気質を持つ教師はまだ残っていた、と小林氏は言う。
「昔は日教組大会の後の宴会で幹部が歌うのは、ほとんど軍歌でした。日教組の幹部が"戦友"や"同期の桜"を歌うわけです。当時は決して左翼闘士だけの場ではなかった。学校の雰囲気も師範学校の集まりそのままでした」
～管理職敵論～
志願学校は国家主義･軍国主義の象徴として廃止されてしまったが、かつて「日教組解体論」を書いたことがある政治評論家の屋山太郎氏は、こう指摘する。
「デモシカ先生が増えてくる前までは、教育現場には師範学校での先生がたくさん残っていました。彼らには教育への情熱がありました。学校に行くお金がないので国から学費の面倒を見てもらっていましたが、その変わり貧しくても教育への志のある人が教職に集まっていたのです。師範学校では"いかに教育が重要なものか"ということがたたき込まれていたのです」
先輩と後輩の絆も強かったという。
「かつての日教組には、中堅教師が新卒教師に自身の体験や経験を教え、手ほどきするという、そんな雰囲気がまだありました。頼まれもしないのに新米教師を縄のれんに誘い、飲みながら手ほどきする、そんな先輩と後輩の関係というものが、まだあったのです」（小林氏）
そんな絆が薄れてしまったのは、宿日直制度が廃止されたことも大きいという。
「昔は宿日直になると、夜2回、巡回時計を持って、学校を見回ったものです。若手教員が泊まる時は、中堅の教員も一緒に泊まって一杯やりながら教育問答をすることもありました。教師が保護者に対して、"今晩は職日直ですから、子供の相談があるのならいらっしゃい"ということもできた。ところが、日教組が"教員は教育が本務。それ以外はやるべきではない""労働時間短縮"などと主張して廃止してしまった」（同）
今では想像できないが、嘗ては校長や教頭などの管理職も日教組に加入していた。しかし、"管理職敵論"を唱え、学校内に敵味方の対立構造を作ろうと策動したのは日教組だったという。
「60年史」は少し触れているだけだが、後の管理職と教員との対立の原点はここにある、といっても過言ではない。
「"公務員にもスト権を与えろ"という運動が盛んになる中、日教組は昭和35年、"日本政府が労働基本権を侵害している"とＩＬＯ（国際労働機関）に提訴しました。昭和40年、日本政府はＩＬＯの勧告を受け入れ、あわせて国内の関係法も改正したのです。その後、校長や共闘に管理職手当てが付き、組合に入ることがｄ系なくなりました。このことでそれまでの"教育一家"というような雰囲気の学校が、一変して、管理職とヒラ教員で分けられるようになってしまったのです」
とさる教育評論家。
「日教組は校長や教頭を敵と見なす"管理職敵論"を唱えるようになり、"教員会議は最高の決定機関である"との方針のもと、校長や教頭がなんと言おうと教員会議で多数決により決められた事項が学校の方針となってしまった。これは今日まで続いていて、その最たるものが、日の丸・君が代問題なのです。今国会で改正教育三法が成立しましたが、そのうちの一つである学校教育法で、これを改めようとしたのです。学校に副校長や主幹、指導教諭を設けられることになり、今後、人事考課などの問題で、組合活動はやりにくくなるでしょう」
やっと教育の正常化への一歩を踏み出したわけだが、いずれにせよ、日教組の歴史は闘争に次ぐ闘争の歴史であった。
～統一スト35回～
昭和32年から始まった勤務評定反対闘争、続く教育課程反対闘争。全国一斉学力テスト反対闘争、さらに昭和50年からの主任制度化・手当て支給反対闘争。昭和59年から行われた臨時教育審議会路線反対闘争、そして平成元年から7年まで続いた新学習指導要領（国旗、国家等）反対闘争と、主だったものでもこれだけの闘争を続けてきたのである。
その間、昭和41年から61年までに日教組と高教組左派が主導した統一ストは実に35回に及んだ。
「日教組は旧教育基本法の10条にある"教育は不当な支配に服することなく"という文言を使って、あらゆる行政指導や法令に対し"不当な支配であり、必要がない"と自己中心的な主張をしてきたのです」
とは先の屋山氏。
「教育内容さえも"国が統制する必要はない"と主張してきました。日教組は"いかに校長の支配を排除するか"だけを考えてきたんです。一方で闘争をし、他方では"寝わざ"を使っていました。寝わざとは、政府が立法化してきたものを、現場では趣旨を上手く料理し、法の影響がないように空洞化することです。あの頃、私はこのまま日教組に教育を任せておけば、日本が日本で無くなっていくような気がしたものです」
これもまた60年史にはまったく書かれていないが、なぜ日教組がこれほどまで先鋭的な闘争に打って出るようになったかといえば、組合専従の存在がある。
「昭和40年代前半、日教組には組合専従が増えました。それまで組合の役員は、現場に籍を置きながら休職をしていたのです。当初は、"現場は3年離脱"と定められて、期間が過ぎると現場に戻っていったのですが、それが5年になり、7年となっていった。そして教育現場に戻ることが出来ず、組合専従、つまりプロになっていったのです。組合のプロになれば、組合が生活の手段、自己防衛の手段になり、組合官僚化していきます。現場の志を忘れて、政治家との付き合いなどプロフェッショナルなテクニックを身につけるようになっていきました。組合幹部は専従で書記長や委員長になった後、まるで双六のように政治家になる道を進んでいったのです。公務員の政治活動は禁止されていますから、日教組は今の日本民主教育政治連盟すなわち日政連を結成したのです。多くの地方議員や国会議員を送り出すことが目標で重要なことになりました。つまり政治集団への道を歩むようになってしまった」（同）
プロ活動家となった専従は、自らの存在意義を示すため、ますます激しい闘争方針を打ち出すようになっていく。そして、その闘争の中心にいたのが、"ミスター日教組"槙枝元文委員長だったのである。
～隠した北朝鮮との交流～
岡山の青年学校教員養成所を卒業後、教壇に立つが昭和17年応召。戦後は故郷で社会科の教師をした後、昭和24年から29年まで日教組本部で専従として活動した。いったん現場に戻ったものの昭和33年から再び本部勤務、昭和37年から10年間を書記長、昭和46年から58年まで委員長を務めた、まさに日教組の"顔"である。
「戦争中は憲兵だったといいますから、戦後、転向して左翼になってしまったんでしょうね」
とは屋山氏。
「総評議長も務めた大物中の大物ですが、ＩＬＯの会議に出てきて"教員にストライキが認められていなのは87号条約違反だ"と主張していました。私はちょうどその時、特派員としてジュネーブにおりました。彼は、"公務員からスト権を取り上げているのは、ＩＬＯのドライヤー勧告に違反している"というのです。ドライヤー勧告は4000項目もあって誰も読んでいませんでしたが、私は丹念に読んでみました。そうしたら、そこには"人事院があって、そこが禁止しているのであれば公務員のスト権は認めなくても良い"と書いてあるではないですか。槙枝は誰も読んでいないと思ってインチキをしたのでしょう。とんでもない奴だと思いましたよ」
槙枝元委員長は昭和58年に総評議長も退任。現在は日中技能者交流センターの会長を務めている。現在86歳の槙枝元委員長ご本人に聞いた。
「私が執行部にいる時期に闘争が激しかったのは事実だ。しかし、これにはわけがあります。昭和29年に大野貞祐が文部大臣になるまでは、文部大臣は教員出身で、文部官僚にも教員出身者があふれていました。あの頃は共に語らい、相談し会う関係でした。しかし、教育の素人が文部大臣になり、文部省にもどんどん学卒者が入ってきて教員出身者が減り、ギクシャクした関係になってしまったのです。教育を知らない文部省は、管理・運営ばかりを強化してきました。そして勤務評定を境に文部省と日教組は、"管理する側"と"管理される側"になってしまったのです。勤評反対闘争にしても主任制反対にしても、臨教審反対にしても、管理教育を強めてきたため、それをはねつけようと仕方なく闘争をしてきたのです。"やり過ぎだった"という思いもありますが、今振り返っても、闘争は間違ってはいなかったと思います」
まさに輝ける日教組闘争の指導者だが、はて、今回、出版された『日教組60年』には槙枝元委員長の名前がない。ちゃんと見ないとわからないほどに小さな写真があるのみである。前後の宮之原貞光、横山英一両元委員長の名は掲載されているにも拘らず、である。
「僕の名前が60年史に出ていないんですか？それはどうしてだろう？」
槙枝元委員長は首を捻るが、日教組は12年前、それまでの方針を転換、当時の文部省をパートナーとして捉える方向に切り換えた。それからすれば、激しい日教組闘争の象徴的存在だった人物をクローズアップしたくないのも当然か。
槙枝元委員長の受章歴には、朝鮮民主主義人民共和国親善勲章第1級や中国との友好親善に関するものがある。
「空港に着くと迎えに来た人がいきなり手を出したのでびっくりして見ると金日成でした。2人で38度線まで行ったことがあります」
と槙枝元委員長は金日成主席との親密さを語るが、「60年史」には、日教組と社会主義国との交流について、一行たりとも書かれていない。
「今の日教組が隠したいのはとりわけ北朝鮮との交流でしょう。日教組の中には、主体（チュチェ）思想研究会がありました。日本国内で主体思想を宣伝する、まさに主体となっていたのです。北朝鮮の教職団体との交流もありました」
こう言うのは小林氏。
「北朝鮮だけではなく、ソ連や中国とも積極的な交流がありました。かつての日教組大会では、運動方針として、"日ソ親善""日中親善"が必ず出ていました。双方とも教職員同盟の交流があり、日教組はソ連や中国へ"革命の総本山"としてしばしば"お参り"に行っていました」
～"闘う"という言葉は使わないで～
最重要な一章がまるまる書かれていない日教組60年史だが、実はこの冊子、たった64ページしかないのである。20年前に編纂された40年史は1000ページあまりの大作。50年史もまた600ページを超える。
「最近の先生たちは活字離れをしているので、ページを少なくビジュアルなものにして貰いたいと言われました」
というのは日教組60年史編集委員会からの依頼で、冊子の編集長を務めた教育ジャーナリストで元毎日新聞論説委員の矢倉久泰氏である。
「編集委員会からはＤＶＤに50年史をそのまま入れ、その後の10年の歴史を書き足すので、冊子の方は、新しく採用された先生や一般の国民に日教組の運動を理解されるような内容にして欲しい、と言われました。そうなると、過去の日教組史観では理解されないでしょう。表現においても、事前に言われたのは、"闘争"とか"闘う"という言葉を使ってくれるなということです。それに替わる言葉は"取り組み"となっています」
新しく生まれ変わった日教組を強調したいのだろう。だが、過去のツケは重くのしかかる。かつてストライキで処分された組合員を助けるため、日教組は救済資金特別会計を計上しているが累計で何と36億円。一般会計が27億円であることを考えれば、何とも重い数字だ。まだまだ、かつての闘争の落とし前を付けられずにいるのである。
日教組の組織率は現在、28.8％。新採用教師の加入率は21.9％にすぎない。自業自得とはいえ、まさにジリ貧。果たして10年後、どんな70年史が編まれることになるのだろうか。
◆日本関係
●「侵略」の規定（*2）
自らの祖国を一方的に「侵略国」だと断じる日本人が多い中で、国際社会においてはそもそも「侵略」の定義自体が存在していないことを知る日本人は少ないようにも感じる。
「侵略」について現在でも世界のスタンダードとなっているのは、1928年のパリ不戦条約、いわゆるケロッグ・ブリアン協定である。この条約は、「侵略戦争は禁止するが自衛戦争は可とする」と定める一方で、「侵略か自衛かについてはその当事国が自己解釈権を持つ」とも定めている。ある国が一方的に他国へ先制攻撃を仕掛けても、それは単純に「侵略」とは定義できず、現にアメリカは「自衛のため」にイラクへ侵攻し、旧ソ連や中共が他国へ侵攻してきた際にも「自衛戦争」「懲罰戦争」を掲げていた。つまり、その国の政権が「侵略だ」と認めれば侵略とされ、「自衛だ」と主張すれば自衛戦争とされるということである。従って、自ら侵略だと認めるような国は、世界では日本以外にはただの一国も存在しておらず、我々の目から見れば明白な侵略行為に映る中共や旧ソ連の他国への侵攻も、当事国が「自衛だ」と主張する以上は、国際社会はそれを批判はできても断罪することはできなかったのだ。
かつて東京裁判において東條首相は「自衛戦争」を主張し、戦後歴代政権も「構成の歴史家が判断すること」とコメントして、決して自国を「侵略国」だとは認めはしなかった。当たり前のことだ。東條英機元首相の孫にあたる岩浪由布子女史は、開戦前夜に東条首相が布団に正座して号泣し、和平を希求する天皇陛下の御心に沿えない結果に至ったことを悔やみ慟哭していたことを自著に記している。泣きながら侵略する馬鹿が三千世界の何処にいるというのか。しかし、本文で述べる中共の対日弱体化工作が加速するに従い、宮沢や細川あたり以降の政権は、戦後数十年も経って自国を「侵略国」だと認める談話・声明・決議等を行ない、自虐史観を事実上の国定史観に据えた。首相の立場で初めて「日本は侵略国だ」と公言した細川元首相は、平成十年に発表した論文で「北朝鮮には対日侵攻の能力はなく、中国にはその意図が皆無だから、在日米軍は不要である」という在日米軍撤兵論を主張して、さすが元朝日新聞記者のお里が知れると言うべきか、反米かつ親中朝の本心を露呈している。かくてマルクス主義者の村山政権時にその自虐性はついに頂点に達した。小渕・森両政権はかろうじて現状維持に踏みとどまったが、靖国神社公式参拝を公約にした小泉首相はその期待が大きかっただけに残したキズ跡も大きかったのだ。
●日本夜明け前、治乱興亡の風が吹く（*2）
インドネシアには戦前に「ジョヨボヨ伝説」という予言的伝承があった。黄色い肌をしたトビメラという英雄が北方から現われ、インドネシアを支配する白人どもを追い払い、そしてジャゴンの花が咲く頃に英雄は去っていくという物語である。またビルマにも「ポウモウジョ伝説」があり、黄色い肌のボウモウジョという英雄が白い馬に乗って東方から現われ、ビルマを日謝意するイギリスを追い払ってくれると伝えられてきた。この二つの予言は成就した。インドネシアの北方の国、ビルマの東方の国、日本という国がその予言を成就させた。映画『ムルデカ』の主人公のモデルとなった柳川宗成中尉はトビメラを名乗り、またビルマ独立義勇軍を育成した鈴木敬司大佐はボウモウジョを名乗った。日本軍はアジアから白人植民地支配を一掃し、新しい世界秩序をその手で築いた。新たなる世界の創造には古き世界秩序の破壊が前提となる。古い皮袋に新しい酒は入れられないからだ。戦争は苛酷であった。しかし戦争によってしか変えることのできないものがある。戦争によってしか守ることのできない誇りもある。それは悲壮な戦いの中にも美しき輝きを放つ。しかし戦後、その輝きは失われた。
八月十五日の靖国神社公式参拝を公約とした小泉首相は、就任以来いまだその公約を果たさず、しかもその一方で「先の大戦において我が国は、とりわけアジア諸国の人々に多大の損害と苦痛を与えました」として「深い反省の念」を口にもしている。自虐史観の象徴たる村山謝罪談話を今も「日本政府の歴史認識」としている以上は、その自虐史観を根源とする内外の歪んだ国策がいかに日本を衰亡へと導いているか、小泉首相も全くその自覚を持っていない様に見受けられる。さらに自らの祖国を一方的に「侵略国」だと断じる日本人が多い中で、国際社会においてはそもそも「侵略」の定義自体が存在していないことを知る日本人は少ないようにも感じる。
「侵略」について現在でも世界のスタンダードとなっているのは、1928年のパリ不戦条約、いわゆるケロッグ・ブリアン協定である。この条約は、「侵略戦争は禁止するが自衛戦争は可とする」と定める一方で、「侵略か自衛かについてはその当事国が自己解釈権を持つ」とも定めている。ある国が一方的に他国へ先制攻撃を仕掛けても、それは単純に「侵略」とは定義できず、現にアメリカは「自衛のため」にイラクへ侵攻し、旧ソ連や中共が他国へ侵攻してきた際にも「自衛戦争」「懲罰戦争」を掲げていた。つまり、その国の政権が「侵略だ」と認めれば侵略とされ、「自衛だ」と主張すれば自衛戦争とされるということである。従って、自ら侵略だと認めるような国は、世界では日本以外にはただの一国も存在しておらず、我々の目から見れば明白な侵略行為に映る中共や旧ソ連の他国への侵攻も、当事国が「自衛だ」と主張する以上は、国際社会はそれを批判はできても断罪することはできなかったのだ。
かつて東京裁判において東條首相は「自衛戦争」を主張し、戦後歴代政権も「構成の歴史家が判断すること」とコメントして、決して自国を「侵略国」だとは認めはしなかった。当たり前のことだ。東條英機元首相の孫にあたる岩浪由布子女史は、開戦前夜に東条首相が布団に正座して号泣し、和平を希求する天皇陛下の御心に沿えない結果に至ったことを悔やみ慟哭していたことを自著に記している。泣きながら侵略する馬鹿が三千世界の何処にいるというのか。しかし、本文で述べる中共の対日弱体化工作が加速するに従い、宮沢や細川あたり以降の政権は、戦後数十年も経って自国を「侵略国」だと認める談話・声明・決議等を行ない、自虐史観を事実上の国定史観に据えた。首相の立場で初めて「日本は侵略国だ」と公言した細川元首相は、平成十年に発表した論文で「北朝鮮には対日侵攻の能力はなく、中国にはその意図が皆無だから、在日米軍は不要である」という在日米軍撤兵論を主張して、さすが元朝日新聞記者のお里が知れると言うべきか、反米かつ親中朝の本心を露呈している。かくてマルクス主義者の村山政権時にその自虐性はついに頂点に達した。小渕・森両政権はかろうじて現状維持に踏みとどまったが、靖国神社公式参拝を公約にした小泉首相はその期待が大きかっただけに残したキズ跡も大きかったのだ。
そもそも首相が靖国へ参拝するのに「不戦の決意を新たにするため」だのと言い訳することが異常であり、「国を守る決意を新たにするため」と言うのが当然である。しかしながら今や、中共に媚びるというその為だけに国家のアイデンティティや国益が放棄され、世界でも類例のない自虐国家日本が米中冷戦の綱引きの間に呆然として立ちつくしているという状況である。ケロッグ・ブリアン協定さえもおそらく知らないままに、愚かな自虐史観から祖国を「悪」と断罪した首相たちの名は、後世の歴史教科書にはどのように記されるのであろうか。
平成十五年七月十二日、江藤・亀井派の会長であった江藤隆美代議士は福井市での講演で「南京大虐殺（の死者）が三十万なんてでっちあげの嘘っぱち」「過去の歴代首相は、侵略戦争だったと頭を下げて自分の国が悪いように言ってきた」「日本人はこれまで自ら辱めるようなことをやってきた」「新宿の歌舞伎町は今、第三国人が支配している無法地帯」などと述べておられる。江藤氏はマスコミからは「抵抗勢力」だのと悪役扱いをされていたが、その実は正しい歴史観と信念を持つ数少ない国士政治家であり、その引退が惜しまれると同時に、一人でも多くの政治家にこの江藤氏の指揮権を継承して頂きたいと切に願う。政治は年令ではなく識見と信念であり、そして国家国益を想う心に他ならない。ところで村山政権あたりから連立与党の幹事長が何かにつけて揃って北京を訪問する「朝貢」がこれまで慣習化していたが、安倍晋三氏は大型連休の外遊先に北京ではなくワシントンを選んでいる。安倍氏は米国に対して媚びることもなく堂々と対等なパートナー化を進めようとしておられ、その言動は米国からも「筋の通った人だ」（ライス補佐官）と評価されており、北京通いばかりしていた山崎拓とは大違いだ。さらに安倍氏は集団的自衛権行使の解釈変更を提起し、自民党各県連に宛てた幹事長通達の中で、「（自虐的な）歴史教育の見直し」を明確に打ち出し、民主党が主張している「従軍慰安婦」への賠償や靖国代替施設について「自虐史観」「第二社会党」だと強く批判している。実にこれはかつてない画期的なことであり、自民党が安倍テーゼに沿って変わっていけば自民党は真の保守党へと再生することができる。これは真の保守政治家が実権を得られさえすれば、この国はまだまだ立ち直れることを示している。
ご存知のように平成十五年の総選挙において、「反戦」「護憲」を掲げた社共両党は大惨敗に至り、自民党は十議席を減らす一方で民主党が四十議席も増やす結果となった。マスコミは「二大政党時代の到来」と嬉々として報道していたが、私はこの結果に大いに危機感を覚えている。それは政党のイデオロギー再編なきままに民主党が議席を伸ばしたからである。共産党が二十議席から九議席へ、社民党が十八議席から六議席へと激減したのは、両党の支持者が民主党に鞍替えしたからであるが、それもその筈で民主党には旧社会党の「沈む船」から逃げ出したマルクス主義者が多数存在しているからである。民主党の岡崎トモ子議員が2002年2月に韓国の反日デモに参加し「自称・元慰安婦」らと共に日本を罵倒するシュプレヒコールをあげていたことからも明らかなように、旧社会党出身の議員たちは党は変わってもその思想は全く変わっていない。
さらに旧社会党系の存在のみならず、民主党は平成十六年の参院比例候補として、日教組や部落解放同盟といった共産主義組織の幹部を担いでいるが、仮にも政権交代を唱えるのであれば、やっていいことと悪いことの区別がある。これらの共産主義組織の代表はこれまで社会党から出馬していたわけであり、さらに各選挙区の民主党候補の経歴を見るに、本来は社民党か共産党から出馬するのが自然な左翼活動家が多数混じっている。これでは社共両党の票が民主党へ流れるのは当然であろう。選挙に際して菅直人は「政権を取ったら自衛隊イラク派遣を中止させる」と主張し、岡田克也（日教組が選挙を応援！）も「中国との関係を損ねるのに、なぜ小泉首相は靖国参拝をやめないのか」とＴＶ討論で述べており、また両氏とも「君が代に反対だ」と述べている。彼らが日本国家の主権や同盟国との信義よりも中共のご機嫌を伺うことのほうが大事だと考えていることは明らかなのだ。民主党は「集団的自衛権行使の不可」「外国人への地方参政権付与」「ジェンダーフリー社会の実現」「日本の戦争犯罪の追求」などをマニュフェスト詳細版で公約しており、このような左翼政党の中に旧自由党や旧民社党といった保守派が混じっていることがおかしいのだ。例えば2004年2月28日の台湾の「人間の鎖」行動で、中共の圧力に屈した自民党議員が誰一人として参加しない中、民主党の中津川博郷・大江康弘両議員は訪台してこれに参加しており、このように明確に主権意識を保持する若手議員たちは、正統保守イデオロギーの持ち主ではあっても選挙区事情で民主党から出馬した方々である。連合という左派労組に票を支えられ、ド左翼がトップに立って自虐史観・謝罪外交・ジェンダーフリーを推し進める党政策に違和感を感じる正統保守派の民主党議員も多い筈であろう。
その一方でこれは自民党においても同様のことがいえる。戦後日本は、安全保障を米国に委ねるという吉田茂の「米国の被保護国」路線と、日米対等なパートナー化を目指す岸信介の「改憲・国軍再建」路線という、二つの政治路線が自民党内でせめぎ合ってきた。吉田茂路線を継承したのが池田勇人─大平正芳─鈴木善幸（元社会党員！）─宮沢喜一へと至る宏池会であり、加藤紘一や河野洋平もこの系譜に連なる。つまり自民党左派と呼べる謝罪外交主義の一派である。また田中角栄─竹下登・金丸信─野中広務・橋本龍太郎へと至る旧田中派の系統は、金権至上主義から中共ＯＤＡ利権に固執し、宏池会と歩調を合わせて対中朝への土下座外交と防衛軽視路線を推し進めた。この自民党内の左派･金権派という土壌のあるところへ、社会党にキャスティングボートを握られる形で村山連立政権をつくった為に、自民党の「社会党化」が加速したのである。元日教組幹部で社会党参院議員を務めたこともある小林正氏は、社会党の体質を「完全にマルクス･レーニン主義国家の発想で考えている」と自ら認めているが、こんな政党の党首を首相にかつぎ上げてしまったのだから、自民党内の左派・親中朝派が完全に実権を握ることになり、河野洋平・加藤紘一・野中広務といった中朝のヒモ付きが総裁・幹事長・幹事長代理を務めている間に、自民党は大きく「左」へ転回してしまったのだ。加藤紘一の腹心であった白川勝彦は自他共に認めるマルキストだが、この白川は平成九年六月に「村山さんを招くことを決めた時、自民党は大きな路線変更をした。その時をもって党内ではリベラル派が多数派になった」と得意気に語っている。言うまでもなく白川の言うリベラルとは、即ちマルクス･レーニン主義のことである。
現在自民党の中でとりわけ警戒する最左派の筆頭、すなわち中朝に服従する「売国三兄弟」は古賀誠─加藤紘一─河野洋平のラインであり、その中で一番危険なのは古賀誠だ。古賀は平成十三年十月のテロ対策特措法、平成十五年七月のイラク復興支援特措法、同年十月の改正テロ対策特措法、これらの全ての採決を野中広務と共に退席しているが、古賀の媚中･反米･反自衛隊の信念はその日頃の言動を見れば明々白々であろう。古賀や野中といった旧社会党と寸分違わぬ思想を持つ人物が幹事長ポストに就くほどに、これまで自民党は「左」へ寄っていたのである。これによって国民の保守層すなわち従来の自民党支持層は、もはや左派政党と化した自民党を支持できないと感じ無党派へと転じた。ＮＨＫの調査では、自民党支持層のうちの７０％しか実際に自民党に投票していないと分析しているが、つまりこの残りの３０％は「自民党だから支持する」ではなく「自民党が保守政党だから支持する」という人々なのである。
一方、岸信介路線を継承したのが福田赳夫─安倍慎太郎─三塚博─森喜朗と続く森派であり、また思想的な同一性を有するのが中曽根康弘─渡辺美智雄─伊吹文明へと至る旧中曽根派系であり、森派から抜けた亀井静香氏の一派がこの系列に合流したのも思想的には自然な流れである。ソ連崩壊と東西冷戦終結以後、中共の軍事的台頭と北朝鮮の核開発、米中軍事衝突の発火点となりうる台湾情勢、今や紛争の舞台が東アジアへと移る中、吉田路線はもはや完全に破綻し岸路線への転換が危急に求められる情勢下となっているが、岸路線の正統継承者である安倍晋三氏の人気は国民が時代の変化を敏感に感じている結果であろう。多くの日本人がさすがに「このままでは大変なことになる」と直堪的に感じているのだ。そして近未来においてこの岸路線とは日本がアメリカと結び中共に対抗できる自立国家となる路線であり、吉田路線とは日本が中共覇権下で事実上の中共衛星国になる路線である。その根拠は地政学のパワー･ポリスティクスにあるが、詳しくは本文で述べる。
このように現在自民党と民主党には大きなイデオロギーの捻れが生じており、二大政党を実現するには、この捻れを解消するための政界イデオロギー再編なくして二大政党が存在する本来の意味を持ち得ない。考えてみてほしいのだが、例えば安倍晋三氏と河野洋平が同じ政党、西村真吾氏と横道孝弘が同じ政党、これでは保守層も左翼も無党派にならざるを得ない。例えば政治的信条から自民党の安倍氏を支持する人は、民主党の西村真吾氏も支持する筈であり、政党とは個々人の多少の差は有っても敢くまでも「同じ政治理念を共有する集団」であるからこそ政党である意味が有るのだ。イデオロギーを無視した選挙目的の野合は、とてもとても政界再編と呼べるものではなく、単なる政界離合集散に過ぎない。アメリカの共和党と民主党の相違を研究してきた私にとっては、この捻れた現状下で「二大政党時代到来」だのとマスコミがはしゃぐのは、二大政党制とは単に大きな党が二つ有ることだと勘違いしているのではないかとしか思えない。
私は自らを英国の政治思想家エドマンド・バーク云うところの古典的保守主義者だと位置づけている。それは伝統保守、真正保守、正統保守等と呼ぶこともできる。つまり日本においては、ＧＨＱによって人工的に造られた「戦後民主主義」の社会の中で自虐史観に基づく発想、すなわち第二次大戦終結以後の価値観で物事を判断するエセ保守、そして「現在の日本は本来の文明的伝統に基づくものではなく、敗戦に端を発する一時的な国家錯乱状態」と捉えて文明の本質への回帰を目指す伝統保守、この二通りの人間が保守を称している。自民党だから保守だとも言えないし、自由主義・資本主義を奉じるから保守だとも言えない。勿論のこと反共だから保守なのでもない。民族的文明における歴史と伝統への見方によって、真正保守とエセ保守は区別される。現在の日本にはこのエセ保守があまりに多く、政界でも言論界でも保守の仮面をかぶった「戦後民主主義者」ばかりが溢れて「メイド・イン・ＧＨＱ」の価値観をしたり顔で振りかざしている。ＧＨＱがマルクス主義者（ニューディーラー）に占領されていた事実を鑑みるに、日本には「保守を自称する無自覚マルキスト」が多いということだ。政界のイデオロギー再編は真正保守とエセ保守とを識別することも大切な要素である。
そしてもう一つ、私が危機感を感じている点は、公明党が政権のキャスティングボートを握る結果になっている現状だ。自民党は参議院でも衆議院でも公明党がなければ過半数を超えず、これでは公明党が了承しなければ自民党の政策は何も進められないことになる。例えば小泉首相は元々「武力攻撃事態対処法案」の中にテロと不審船もその対象に含めると主張していたが、公明党が「それを入れると自衛隊の活動範囲が広がる」と強固に反対し、結局これらは対象外ということになってしまった。国民の目の届かないところで、意味さえ分からないような理由で国防法案が骨抜きにされている。僅か三十四議席の「犬の尻尾」に「犬」そのものが振り回されているのだ。公明党の政策は地域振興券なる商品券のバラまきに七千七百億円（経費込み）もの国費を濫費させた一例が示す如く、政党としては余りにも幼稚すぎるものだ。かつて村山政権下で自民党が「社会党化」して謝罪決議なる愚行に至ったごとく、自民党の「公明党化」がこれから始まることを大いに危惧する。
ご存知のように公明党は池田大作の個人独裁制等である。池田大作は「私は日本の国主であり、大統領であり、精神界の王者であり、思想文化一切の指導者・最高権力者である」（『人間革命をめざす池田大作、その思想と生き方』有紀書房）と言い放ったことがあるが、日本の国主は天皇陛下であり、この発言は看過できない。創価学会＝公明党の最終目標は、本来この池田大作大統領実現にあったのだ。また池田大作は中共からの勲章や名誉博士号欲しさに自虐史観と謝罪外交を掲げており、創価学会は「周恩来展」など中共プロパガンダに奔走している。さらに憲法九条改正にも教育基本法改正にも反対しており、在日韓国人信者の票目当てに外国人参政権付与を執拗に推進してもいる。公明党が首相の靖国参拝に反対するのは、中共へ媚びるためだけではなく宗教的イデオロギーに基づくものでもあり、創価学会の『日本の宗教の現状』という本の中には、神社には神など居らず神社のお札やお守りは「悪鬼の棲み家」だと書かれている。そして言うまでもなく公明党議員は、全員がこの「神社は悪鬼の棲み家」だと信じる創価学会員なのだ。そのイデオロギー再編の対象にならない政党は、マルクス主義の社共両党そして公明党の計三党だったのである。しかし自民党も、そして野党も新進党時代に、このタブーを破って共産党以外の二党と連立してしまった。国民の大多数は特定の宗教がキャスティングボートを握るような政権がこの国難下で国家の舵取りをすることを望んではおらず、平成十五年十一月十六日のフジテレビの世論調査では「自公連立を評価しない」が六割を超えた。本来の自民党支持層が減り続ける一因は、この公明党との連立や「比例は公明党に」といった異常な選挙協力姿勢にもあるのだ。なお公明党の政策の根本には、池田大作のある特殊な観念が存在しているのだが、これも詳しくは本文で述べる。
昭和四十八年、かつて自民党の伝統的保守主義者たちが青嵐会を結成し、故中川一郎氏や石原慎太郎氏、そして森喜朗氏や江藤隆美氏もそのメンバーだった。森派や亀井派（旧江藤・亀井派）に真の保守主義者が多いのも、このリーダーの資質に由来するものであろう。森喜朗氏は首相在任中にマスコミから集中的中小を浴びたが、青嵐会時代の志を貫いて対中従属を断固拒否する姿勢を示されたことについて、私は森氏を宰相として高く評価している。ちなみに青嵐会メンバーであった故国場幸正代議士は私の叔父の義父にあたる人物で、左派勢力が強い沖縄県の選出ながらも揺るぎない愛国心を堅持していた。私の叔父も若い頃にはその秘書を務めていたことがあり、私は青嵐かにはとりわけシンパシティを感じている。その後、この青嵐会と同様の志を持って結成されてきたのが「国家基本問題同志会」「英霊にこたえる議員協議会」「歴史･検討委員会」「終戦五十周年国会議員連盟」「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」等であり、野党側にも新進党時代に「正しい歴史を伝える国会議員連盟」があった。これらの議連に参画してきた議員の方々に、もう一度その時の志を甦らせ、政界のイデオロギー再編に立ち上がって欲しいと私は心より願う。
これまで「外交と安保は票にならない」と言われた時代が長く続いてきた。「憲法改正や国軍創設を言うとマスコミからタカ派だとレッテルを貼られる」と怖れ、口をつぐむ政治家も多くいた。政界から大衆に至るまで、国家意識を喪失した日本人のこれまでの姿は、まるでダンテが描くところの「天国と地獄の中間をさまよう、宙に浮き顔のない青白き魂の群れ」そのものであった。愚かにも日本人は国家･民族よりも地元の利益のみで国政に携わる政治家を選んできたのだ。しかし拉致問題をきっかけにして国民のこの意識は変わりつつある。拉致問題に取り組んできた大前繁雄氏が土井たか子を破った選挙結果こそがそれを象徴している。この意時代の流れはもう誰にも止められず、更に加速して行く事であろう。レーガンが大統領就任直後に米保守団体の総会で語った「我々は心の痛む敗北を何度味わい、暗黒の孤独な夜を何度過ごしたことか。だが今や我々保守の時代が到来した。自由のため、保守のために全力で戦えば、後世の人は必ず、我々を勇気と英知のある人間として、歴史に栄誉をもって位置づけるだろう」という言葉は、ようやく日本にも当てはまるようになってきたのだ。志しある政治化諸氏は、左翼マスコミの批判を恐れず、「国民の生命を守ることがタカ派だと言うならタカ派で結構」と断じた安倍晋三氏が圧倒的な国民人的人気を得ている現実、そして石原慎太郎が「総理にしたい政治家」のトップに常にランキングされている現実、この時代の変化に覚醒してほしいと願う。
小泉訪朝に先立つ平成十一年、当時私が代表を務めていたに日本歴史修正協議会は、北中汚染の核開発や拉致を訴える大規模なシンポジウムを主催した。日本歴史修正協議会は「自虐史観の修正」をその活動目的とする保守言論団体だが、自虐史観に由来する謝罪外交の延長上から北朝鮮の拉致や核開発が放置され、逆に米が贈られているような現実に危機感を感じ、歴史認識問題以外のテーマを取り上げたのだ。しかし自民党の板垣正元参議院議員がパネリストの一人であったにも関わらず、若干数の府議や市議は出席してくれたものの国会議員は誰も来ず、また主催者代表である私は朝鮮総連や京都信用保証協会（保証部の大半が共産党系）から不当な思想弾圧や脅迫を受けることになり、議員も警察も誰も守ってくれる者はいなかった。私は子供の頃に、他ならぬ左翼組合の教師から「日本は戦争に負けたおかげで、思想と言論の自由のある国になった」と教えられたが、共産党が府議会・市議会の半数近くを占めるような京都では、私のような保守主義者にとっては思想や言論の自由はなかったのだ。そして今でも京都信用保証協会による経済的圧力を中心とする共産党勢力の私への攻撃は多々続いている。しかし国民の覚醒と時代の変化が、いずれ私と敵側との今の立場を逆転させるであろう。その夜明けが近づいていることを私は感じている。
さて国家戦略というものは、政治･経済・軍事・心理宣伝（プロパガンダ）など、国家がその現在及び未来の繁栄の為に用いるあらゆる戦術の基幹となるものである。しかし実に残念なことに日本はこの大局的な国家戦略を持っていない。国家戦略を立てるには、関係する諸国の戦略を把握しておかなければならないが、政治家も官僚も多くの国民もそれをよく理解していない。平成十四年九月の小泉訪朝とは、親中朝派外務官僚の田中均アジア大洋州局長がアメリカに無断で中共の「日米離反シナリオ」に乗って暴走した愚行の産物だが、結果的にはそれを端緒として、北朝鮮のその実態をようやく一般国民が広く知るところとなった。しかしながら実は北朝鮮以上に日本の未来にとっては巨大な悪禍となる中共の対日戦略、またクリントン政権期と比べてダイナミックな戦略転換が行われたるブッシュ政権の世界新秩序構想、これらについては一般国民の認識は十分とはまだとても言えない現状だ。そしてその世界新秩序という言葉は日本では否定的な意味合い、つまり「米国の横暴」といった批判的な用途で用いられているケースがあることも事実である。とかくマスコミや世論では、共和党も民主党も『アメリカ』という表現でひとくくりにして幼稚なマクロ視点で論議されることが多いのだが、共和党と民主党の国際戦略の差を比較分析するミクロ視点の欠如にも危惧を感じる。また米国共和党の国際戦略は、日本が私たちの望む「普通の国」へと脱皮できる国家再生へのチャンスであることも、余り理解されていないように感じている。
反米や親米の論調は巷にあふれているが、私は親米でも反米でもなく、敢えて言うのであれば親共和党･反民主党という「超米」の立場である。その理由や根拠は本書をお読み頂ければ理解して頂けるであろうが、私のような視点での論評は巷ではあまり見当たらず、第三の視点であるとも言えよう。しかしこの第三の視点が日本世論の主流となっていかなければ、この日本は今後衰亡への道を突き進むことになる。共和党及び民主党の異なる国際戦略や中共などの対日戦略を正しく把握することが、我が日本の近未来戦略を構築するためには必ず必要なのだ。共和党ブッシュ政権においては、日本を英国のように対等な同盟国へと昇格せしめんが為、日本に対して「憲法改正・国軍創設・場合によっては核保有」を要望し、「アメリカは強い日本との同盟を望むが、中共は日本弱体化を望む。日米同盟と日中友好の両立はありえない」という選択を突きつけている。そして共和党の認識には「中共への弱腰外交を日本に中止させるためには歴史観の問題がカギだ」というものが確固として存在しており、平成十四年二月のブッシュの靖国神社参拝の打診は、まさに対中戦略のために先の大戦の歴史観（日本の自虐史観）を転換させんが為の共和党のアプローチであった。結局ブッシュが靖国神社に参拝することは外務省チャイナスクールの抵抗で阻まれたが、もし仮にそれが実現していればアメリカ歴代大統領として初めての画期的な出来事であり、日本の内外政策に甚大な悪影響をもたらしている根因たる自虐史観が修正される大きな転換点となっていたことであろう。
詳しくは本文で述べるが実は、共和党は対日戦争にも原爆投下にも反対しており、東京裁判の正当性にも疑問を呈していた。しかし当時、米政界において共和党は野党であった。結局、先の大戦で米民主党政権はソ連への示威行為として、また人種差別的なる「人体実験」を目的として、ウラニウム型（広島）とプルトニウム型（長崎）の二種類の原爆を投下して、数十万人にも及ぶ日本の民間人を殺害した。民主党政権によるこの真のホロコーストは、共和党の多くを占めるキリスト教原理主義者にとって大きな「原罪」となり、精神の底に罪悪感を伴わせることになっている。ニューディーラーと呼ばれる民主党左派（現マルクス主義者）が支配していたＧＨＱ民間情報教育局（ＣＩＥ）は、この原爆投下を含む対日戦争を「正義」とするために、『ウォー･ギルト･インフォメーション・プログラム』という洗脳作戦を実施し、三十項目からなる検閲を課して一切の日本弁護を禁じ、ラジオや映画を通じて日本悪玉史観のプロパガンダを大々的に行ない、ＧＨＱ製の日本近現代史『太平洋戦争史』連載を各新聞に命じた。そしてこのニューディーラーによってつくられた歴史観は、マルクス主義史観（階級闘争史観）とほぼ一致していたため、ソ連や中共に利用される結果となった。ソ連や中共の手先と化した反日的マルキストたる日本左翼勢力は、共産革命のために祖国日本への誇りや愛国心を日本人から奪おうと企図し、またソ中の日本侵攻の障害となる防衛力や安保を取り除こうと企み、この自虐史観をその「道具」に用いてきたのだ。過去半世紀に渡り、多くの日本人がだまされ続けてきた。日本をここまで狂わせてしまった罪は、むしろアメリカというよりも日本国内の売国的左翼勢力こそが問われるべきであろう。
しかしその一方、田中正明氏による昭和二十七年の「パール判決」初刊行以来、其の弐本無罪論の主張と日本の真の独立を願う草奔の声も決して絶えることはなく、とりわけ近年は小林よしのり氏の『戦争論』や藤岡信勝氏の『教科書が教えない歴史』、映画『プライド』のヒットなどが多くの若者たちに新しい愛国心を芽生えさせている。この日本の自虐史観見直しの潮流は、世界をアメリカの「管理下」に組み込もうとするグローバリズムの動きに反発する自然なナショナリズムの勃興でもある。グローバリズムはナショナリズムを封殺し、世界中にある彼らの資産や利権を守り維持することにある。しかし間違ってはならないことは、アメリカという国が丸ごとグローバリズムを推進しているのではないということだ。グローバリズムを推し進めているのは、民主党とその支持基盤である国際ユダヤ資本なのだ。ニューディーラーとはグローバリストの初期形態でもあり、戦後日本を「管理」してきたのは、この民主党系勢力なのである。一方ブッシュに代表される共和党保守派は、一貫してこのグローバリズム戦略に反対してきた。しかし日本では反グローバリズムを唱える勢力が、何故か共和党ブッシュ政権も非難している。誰が敵で誰が味方かを理解していないからだ。
自虐史観からの解放とパトリオティズムの勃興とともに、アメリカの犯した罪を憎みグローバリズムに反発する反米の気運が少しずつ高まりつつあるのも事実だが、しかし例えばもしアメリカ人が社民党や共産党のイデオロギーだけを見て日本という国を判断すれば、きっと我々はそれに異を唱えるであろう。アメリカでも共和党と民主党とは、まったく違うイデオロギーと対日戦略を持っており、本書の主題の一つは、まさにこの共和党と民主党との相違を比較することにある。グローバリズムと反グローバリズム、対日方針における「日本の自立」か「管理」か、政治・軍事的に「強い日本」か「弱い日本」か、第二次大戦の結果に基づく世界秩序の「再編」か「継続」か、アメリカには相反する二つの考え方の勢力が拮抗している。それを理解せずにアメリカを人括りにして「反米だ、いや親米だ」と主張することは、極めて幼稚な観念論でしかない。つまり日本の「戦後体制」からの脱却とは、脱グローバリズムすなわち米国民主党の対日管理からの脱却に他ならず、ブッシュ共和党政権はそれを後押ししているのだ。しかし保守派でも無知な人々は単純な白黒二元論で反米を唱え、「強い日本」を願う共和党政権に罵声を浴びせている。その根底にあるのは、まず「二つのアメリカ」が存在していることを知らない無知さ、そして日教組教育によってインプリンティングされてしまった反米観念に他ならない。
昭和四十一年十月、死を目前にした前年に最後の来日を果たされたラダ・ビノード・パール博士（東京裁判インド代表判事）は、『若き日本の世界的使命』と題するメッセージを日本国民に向けて公表し、その中で「プロパガンダの効果の恐ろしさは、たえず感情にはたらきかけて、知らず識らずの内にあなたがたを奴隷化し、自分の本性に合致しない信条や信念や行動を信じこませる力があるという点にあります。あなたがたの精神と判断の正しい自主性を保つようにして下さい」と述べられた。しかし敗戦のショックは日本人から自主性を喪失せしめ、マルクス主義者による自虐史観プロパガンダが日本の現在の歪みきった「戦後体制」をつくった。妄想平和主義、防衛アレルギー、核アレルギー、謝罪外交、対中従属、国連中心主義、そしてジェンダーフリー等々の亜流マルクス主義への幻想。多くの国民が意図せず自覚もせずに知らず識らずの内に「マルクス主義の奴隷」となってしまった、それがこの「戦後体制」なるものだ。本書はそのマルクス主義者のプロパガンダを打破し、より多くの政治家や国民を「マルクス主義の奴隷」から解放するために、また今や目覚め始めた日本国民に対して「戦後体制」を超えた新たなる時代の指標を示さんがために書いた。それはパール博士の遺志を継ぐ田中正明氏の系譜に連なる門下生たる私の使命だと自負している。
●余談（アラカルト）
①繁栄のヒント～「ポケモン学院」を海外に～（「WiLL-2007年8月号」日下公人氏）
温家宝の訪日を巡る報道では「過去に日本が行った侵略とその謝罪」が大きな問題になったが、そもそも中国の日本認識がこの七十年間にどう変わったかを書いてみよう。
中国共産党は戦後、日本について、まず二大発見をした。
その一は、侵略と言えば日本人は単なる戦争なのに"悪かった"と言い、"謝罪せよ"と言えば"これで帳消しにしてくれ"と援助をくれることで、こんなことは中国人の常識には三千年間、まったくなかったことである。その上"まだ足りない"と言えば三度でも四度でも反復して特別扱いしてくれるというのも大発見である。
まだある。中国へ来た日本人に「今夜の夕食代はお前が払え、侵略戦争をした償いだ」と言うと、一商人や一学生が気前よく払ってくれるというのも驚天動地の出来事である。国家がしたことを個人が我が事のように思うなどは、中国人の常識には全くないことである。
中国人から見れば日本人はパンダ以上の珍獣である。
そこで中国共産党の洗脳工作は、国家との一体感が強い日本の地方都市や、国際親善を最高の美徳と考える若者などに対して攻勢をかけるようになった。
その一端だと思うが、温家宝は、国会演説は早々に切り上げて京都へ行き、立命館大学の学生と遊んで、学生が「中国からの寄付で孔子学院ができて儒教が勉強できるとは嬉しい」と言うのをテレビで報道させた。
一、 日本は中国人と違って国民意識を持っている。
二、 日本人は中国人と違って思想を尊敬している。
と看過すると、直ちにそれを具体的な外交活動にしたのは天晴れである。
中国共産党は中国人に対してこの六十年間、国家と思想の重要性を説き続けたが空振りに終わったのに対し、日本人に対しては簡単に工作が成功するので嬉しいだろうと想像する。
毛沢東は中国人の個人主義と功利主義を破壊すべく、紅衛兵を動員して文化大革命起こし、約3千万人を殺戮したが、それでも「私の死後はまた昔に戻るだろう」と言ったらしい。
私も長い間そう思っていたが、最近考えが少し変わった。
それは中国の若い人の変化が烈しいからで、若い人の一部は日本の文化・文明・経済・礼儀・道徳に感化されていつの間にか心の中は日本人になってきた。日本の思想を根底から知りたいと思う人が出てきた。
早く言えば毛沢東が失敗した中国人教育を日本が今やっている。毛沢東語録ではなく、ドラえもんがそれをしている。投獄や農村への下放ではなく、日本から現地工場が進出して勤勉と協力の価値を従業員に教えている。日本の現地社員はそれを実行してみせている。
早く言えば北風政策と太陽制作の違いだが、では日本はもう一歩進んで日本からも中国に対して何か孔子学院的なものを寄付して中国人に本当の道徳を教えねばならない。
それは中国のためであり、中国共産党のためであり、また泉下に眠る毛沢東の気持ちに副うことでもある──とまでは言わないが、ともかく中国が良い国になるのは日本の利益である。
外務省は予算を潤沢に持っている。中国のみならず世界に日本文化学院を百ヵ所作るくらいはなんでもない。
最近、アメリカでも日本語熱と中国語熱があるが、問題は教師不足だそうだ。それに中国語の教師は天安門事件で国外に脱出した人たちだから、思想が反共産党的で、それが中国政府が教授つきの孔子学院を世界に百ヵ所寄付することにした淵源らしい。
日本語教師も不足らしいが、海外勤務の経験を持った団塊の世代がまもなく大量にリタイヤするのは貴重な戦力である。
ところで日本文化学院にはどんな名前をつけるとよいだろうか。聖徳太子学院？それとも黒澤明学院？
私の提案は中国に対しては渋沢栄一学院で、それからアメリカに対してはポケモン学院である。
これがよい理由は各自お考え下さい。文科省の人も外務省の人も、それぞれお考えくださるようお願いします。
※日下公人（くさかきみんど）
1930年生まれ。東京大学経済学部卒。日本長期信用銀行取締役。（社）ソフト化経済センター理事長。東京財団会長を歴任。著書に『組織の興亡 日本海軍の教訓』『戦艦大和の真実』（ワック出版、三野正洋氏と共著）『よく考えてみると、日本の将来はこうなります。』（ワック出版）など多数。最新刊は『こんなにすごい「日本人のちから」』（ワック出版）。
②永田町コンフィデンシャル ～韓国軍艦「天安」沈没の裏側～（「WiLL-2010年7月号」 九段靖之介氏）
本稿は五月十六日の時点で書く。それを前提に以下の事柄を読んでいただきたい。
三月二十六日、韓国哨戒艦「天安」が爆発、船体は真っ二つに割れ、四十六人の死者を出した。北朝鮮の魚雷による疑いがある。大統領・李明博が「もしそうなら、断固たる対応をする」と涙ながらの会見をした。
以後、天安の船体を引き揚げ、裂け目から火薬が検出された。どうやら北の魚雷の火薬成分らしい・・・というわけで、北への対応をめぐって、韓国は揺れに揺れている。そこまでは日本のマスコミも報じた。
四月に入って、あれは米韓合同演習中の事故だったとの情報を小耳にした。気にかかっていたので某日、インターネットで検索してみた。「米韓合同演習 天安」とキーワードを入れると、関連の情報が出るわ出るわ。
現場近くに米国原潜（らしきもの）が船腹を上に転覆している写真が、韓国のウェブサイト自主民報に出ている。つまりは衝突事故？
ハワイから参加した米原潜二隻のうち、コロンビア号（SSN-762）が、いまだに帰港しないとある。いや、帰還しないのはコロンブス号だといった騒ぎになっている。
四月七日、韓国のＫＢＳテレビが、事故の直後、米軍ヘリが米兵の死体とおぼしき物体を釣り上げて運び去る映像を流した。
米軍の要請を受けて、韓国軍の潜水艦が探索に潜り、ハン・ジュホ准尉が殉職した。気圧調整の装具は十五分しかもたない。それを米軍が無理強いして数人の隊員が気を失い、うちハン准尉が死んだとある。ことを急いだのは、核兵器の搬出のためらしい。
米海兵が装具の不備を理由に作業を拒否し、ために韓国潜水隊が代行した。韓国沿岸の原潜事故は放射能漏れの可能性がある。ために韓国兵が救国の思いに駆られ、装具の不備を知りながら、時間を超えて探索に従事し、二次災害に遭ったと目される。ハン准尉の葬儀に米側高官二人が出席し、遺族に見舞金を贈ったとある。
ＫＢＳの報道以来、韓国は朝野を挙げて一段の大騒ぎとなる。北の魚雷か、米原潜との衝突か、あるいは演習中の誤射か・・・。対して韓国政府はＫＢＳの報道に反駁、関連のビデオテープを押収した。つまりは「衝突説」を忌避する。躍起となって真相を隠蔽するかにみえる。いや、この情報は反政府系が流したガセネタだ、彼らは北と繋がっているとする見方もある。
米韓の合同演習と知りながら、北が魚雷を発射するわけもない、とする観測がある。しかし、簡単にはそうも言えない。合同演習はこの海域の覇権を誇示するために行われる。中国や北にすれば不快だ。
すでに中国海軍は「太平洋を二分して、ハワイ以西は中国が支配する」と米太平洋軍司令官に告げている。西太平洋から中国沿岸はもとより、朝鮮半島沿岸までの覇権を意図する。その一環として北を使嗾（しそう）したとも受け取れる。北は中国のナイフだ。事態が紛糾したところで、直接の米中対決とはならない。南北の紛争、つまりは代理戦争となる。
韓国が国を挙げて「北に報復を！」と大騒ぎする中、北の将軍様・金正日が訪中した。左脚をひきずる映像が日本のテレビでも流れた。日本のマスコミはもっぱら「北の魚雷説」を報じている。韓国でこれだけの大騒ぎとなっている「衝突説」を報じない。情報がコントロールされているのか、それとも純粋に知らないのか。知らないとすれば、キナ臭い半島情勢にあまりに鈍感というしかない。
マスコミは「いま、なぜ金正日の訪中か？」と題するが、情報の重要な一環を欠いたままの報道だから、もう一つ、食い足りない。南で北への報復が盛んに叫ばれる中、おいそれと将軍様が国を空けるか。仮に米原潜との衝突事故なら、われ関せずとなろう。カネの無心（投資）と後継者の三男坊のお披露目に出かけたわけで、「天安」対策が主ではない。
一方の李明博にすれば、本当に苦慮しているのは北への対応ではなく、アメリカへの対応となる。核を積んだ米原潜がペニョン島沖に入れ替わり立ち代り潜んでいた、その事故は「天安」より危険を孕む。これをアメリカと一緒になって、どう隠蔽するか。片や北への報復が叫ばれる中、二つをどう調整するかが彼の苦悩となるはずだ。
情報が錯綜して様々に考えられるが、とにもかくにも情報を抑えずに提供する姿勢が日本のマスコミには欲しい。その点、インターネットは調法する。マスコミがインターネットに日に日に食われていくのも当然だ。
③朝鮮半島通信vol.38 「不作」に終わった金正日訪中（「WiLL-2010年7月号」早稲田大学教授 重村智計氏）
金正日総書記は、五月三日から七日まで中国を訪問し、胡錦濤国家主席と会談した。この中国訪問について、テレビは専門家を登場させ①改革開放を導入するため②後継者の金ジョンウン氏を同行させ中国の承認を得る③六カ国協議復帰や韓国哨戒艦事件を協議するため──などの予測を行った。
この金正日総書記の訪中について、もっとも正確に報じたのは、産経新聞の伊東正特派員。見出しは「六カ国協議復帰説得失敗？」。だが、最後に「？」を付けるべきではなかった。明らかに、失敗したのだから。
伊藤記者は、中国側の報道に「坦誠」（率直で誠意ある）との表現を発見した。この表現が、中国語では「意見対立を意味する外交用語」である事実から、「六カ国協議への復帰」では合意できなかったと判断した。たいへんな取材力である。他紙の記者はこの判断ができなかった。成果がなかったのは間違いないのに、「成果無し」「訪中失敗」と書けなかったのだ。
実は、首脳会談についての外交常識があれば、こうした判断は難しくはなかった。首脳会談では、通常何らかの合意があれば「共同声明」が発表され、なければ「プレス･ガイダンス」（新聞発表文）が発表される。
これまでの中朝首脳会談ではいずれかの文書が発表されてきたのに対し、今回はまったく文書が作成されなかったのだ。中朝が「友好関係」にあるのなら、あり得ないことである。この一事から、首脳会談は失敗したと読み取ることができるのだ。
それでも、新聞の報道と解説は、テレビに比べればまだ節度を保っていた。テレビに登場した専門家は、金正日総書記の「改革解放」導入方針と、後継者同行を強調した。だがこの解説は、明らかに間違いであった。
金正日総書記が中国を訪問するたびに、「改革開放を導入する」との「ウソ」の解説を続ける人たちがいる。在日の専門家に多い。日本での北朝鮮のイメージを高める意図があるのだろうが、北朝鮮は「改革、開放を導入できない」との真実に気がついていない。あるいは、知りながら「ウソ解説」を続けているというべきか。
なぜ、北朝鮮は改革・開放策に踏み切れないのか。理由は、金正日体制が崩壊するからである。改革政策を採択するためには、金日成主席と金正日総書記が「政策を誤った」、と言わざるを得ない。しかし二人の指導者への批判が可能になれば、体制は維持できなくなる。指導者の「正統性」が失われるからだ。
朝鮮半島の政治では、「正統性」は最も重要な価値観である。北朝鮮では金日成主席と金正日総書記を、世界でも例のない偉大な指導者と宣伝し、「指導者無謬説」を徹底してきた。その指導者が間違っていたとなれば、「正統性」がなくなり、体制はたちまち崩壊に向かうのだ。
～国家予算は五十二億円～
また、中国の北朝鮮政策と、北朝鮮のナショナリズムと価値観、中朝の歴史的な関係、微妙な国際関係を知っていれば、「金ジョンウン氏が同行する」「胡錦濤主席と面会する」とのいい加減な判断はできないはずだ。
一つ目の理由は、中国は権力の「世襲」に反対してきたからだ。もちろん、露骨には反対できないが「社会主義に世襲はない」「国際社会では理解できないだろう」と言った表現で、北朝鮮の世襲に反対の意向を示してきた。
二つ目は、金ジョンウン氏はまだ公式に後継者と決定されたわけではないことだ。現在は、肩書きもまったくない、金正日総書記のただの三男である。そんな人物に、中国の指導者が面会するわけがない。もし会えば「世襲を承認した」と受け止められかねない危険がある。
一方、北朝鮮側にも後継者を胡錦濤に面会させられない事情がある。もし面会させれば、「中国に後継者として承認してもらった」と受け取られる。北朝鮮の民族意識や主体思想からすれば、「中国に後継者を承認してもらう」のは、封建時代の考えだ。これを現代の韓国と北朝鮮では「事大主義」として批判している。
金正日総書記訪中の最大の目的は、韓国の哨戒艦事件で北朝鮮への非難や制裁を強化させないためであった。哨戒艦事件の責任を北朝鮮に押し付けるのなら、「六カ国協議の最下は不可能だ」との「脅し」をかけ、非難や制裁強化の弱体化を図ろうとした。だが、この駆け引きは、今のところ成功していない。
また、経済苦境を乗り越えるための支援と外貨送金の復活を中国に求めたが、うまくいかなかった。中国は、北朝鮮に向かう外貨送金を全面ストップしているという。北朝鮮が発表した今年の国家予算は、日本円でわずか「五十二億円」である。デノミネーションと為替レートの変更で、現在のレートではこうした額になるのだ。わずか五十二億円の予算では、経済は破綻するばかりである。
中朝首脳会談の動きで注目されるのは、金インチョル国防委員の突然の解任発表である。北朝鮮の朝鮮中央通信は、十四日早朝に金インチョル元人民武力相が、八十歳の高齢のため解任された、と報じた。これは、異例中の異例の報道であった。
～哨戒艦沈没への報復～
北朝鮮が、国防委員の解任を報道したことはこれまでなかった。それも、早朝という時間帯である。なぜ、こうした発表を行ったのか。実は当初、韓国政府は哨戒艦の調査発表を十四日に行うと伝えていた。この発表前に、責任者の処罰を公表したのではないか、と考えられるのだ。
事実上犯行を認め、責任者の処罰を、密かに中国やアメリカ、韓国に伝え、穏やかな調査結果の発表を促し、強硬策を回避しようとした、と見られる。
しかし、事件が北朝鮮の犯行である事実が明らかになっても、韓国側は「軍事報復」はできない。韓国が可能な選択は①米韓大軍事演習②国連安保理での非難決議③国連での新たな制裁──などだが、問題は、国民がこれで納得するかである。李明博政権は、事件の最初の扱いを間違え「北朝鮮の犯行ではないようだ」と発言した。また、緊急の安保会議も招集しなかった。こうした政府の失態に、国民は批判を強めているからだ。
李明博大統領と保守与党が一番心配しているのは、六月二日の統一地方選挙への、事件の影響である。今回の選挙は、李明博政権への中間評価の意味と同時に、次の大統領選挙（2012年）への前哨戦になるからだ。
●歴史関連
①安倍首相よ｢教育再生は正しい歴史認識から｣をお忘れなく
～階級闘争史観ムキ出しの教科書ではまっとうなナショル・アイデンティティは育たない～
（「SAPIO-2006.12.13」 高崎経済大学教授 八木秀次氏）
国民の歴史認識は教育によって育まれる。そのため各国は自国に都合のいい解釈にあふれた教科書をつくってきたわけだが、ご存知の通り日本はまったく事情が異なる。昨今の批判を受けて、事実誤認に基づいた自虐的な記述は多少減りはしたが、いまだ階級闘争史観そのままの教科書もある。こうした教科書の現状を日本教育再生機構理事長を務める八木秀次氏が憂う。
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安倍首相が就任前と打って変わって、河野談話と村山談話を内閣として継承すると国会で答弁したことは、これまで安倍氏の「戦う政治家」としての政治姿勢を評価してきた人々の間に少なからず波紋を広げた。しかし、いずれの談話も閣議決定されたものであり、内閣総理大臣といえども、簡単にこれまでの政府見解を覆すわけにはいかない。しかも訪中・訪韓を控えての答弁である。安倍首相は河野談話や村山談話に示された歴史認識と最も戦ってきた政治家だけに、苦渋の選択だっただろう。
ただ、首相は両談話を丸呑みしたわけではない。訪中の際の日中共同プレス発表では村山談話にあった「侵略」や「植民地支配」という文言を使っていないし、訪韓の際の首脳会談では盧武鉉大統領から冒頭の40分間以上、慰安婦や歴史教科書、国立追悼施設に関する"ご講義"があったが、首相はそれに取り合わず、歴史認識を文書にしようという韓国側の要求も拒否している。それなりに「戦った」といえるが、そのことは余り報道されていないために、両談話を継承したという首相の姿勢だけがクローズアップされている。
先にも述べたように、安倍首相は河野談話や村山談話に示された歴史認識と最も戦ってきた政治家である。それは例えば歴史教科諸問題への積極的な取り組みとなって表れた。村山政権が発足したのは平成6年6月、村山談話が出されたのは平成7年8月のことである。翌8年4月、検定合格した中学校の歴史教科書7社すべてに「従軍慰安婦」の強制連行の記述が掲載されたことが明らかになる。村山談話の｢わが国は、遠くない過去の一時期、国策を誤り、戦争への道を歩んで国民を存亡の危機に陥れ、植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました｣という部分を象徴する事例が慰安婦の強制連行説ということなのだろう。
日本軍や官憲による慰安婦強制連行なるものが虚構であることは、今では周知の事実だが、いずれにせよ、河野談話・村山談話はその後の我が国の歴史教育を大きく反日自虐的な方向に舵を取らせたことだけは間違いない。安部首相は、そのような歴史認識と敢然と戦う政治家として頭角を現したのだった。
～村山政権下で際立つ歴史観のトンデモ度～
今から振り返ってつくづく思うが、村山政権下で検定合格した歴史教科書はそのトンデモ度が際立っている。それは慰安婦の強制連行といった虚構が堂々と掲載されていたというだけでなく、歴史観全体がトンデモなのだ。例えば、平成8年4月に合格して平成13年3月まで使用されていた中学歴史教科書（教育出版）の各項目タイトルには次のようなものがあった。「国司をうったえた人々──貴族の政治」（平安時代）、「地頭をうったえる農民」（鎌倉時代）、「新政府をうったえる」（室町時代）、「立ち上がる農民──戦国の世」（戦国時代）、「たたかう一向一揆──信長・秀吉の天下統一」（安土桃山時代）、「百姓一揆の高まり──生活を切り開く民衆の抵抗」（江戸時代）、「農民や士族の抵抗──高まる政府への不満」（明治時代）、「高まる民衆運動──民衆と政党政治」（大正時代）
時代区分は私が補ったものだが、平安時代の貴族政治の主役は貴族ではなく、「国司をうったえた人々」。戦国時代の主役も戦国武将ではなく、「立ち上がる農民」。安土桃山時代の主役も信長・秀吉ではなく、「たたかう一向一揆」。日本の歴史を通じて、民衆・農民がいつも「うったえ、立ち上がり、たたかい、抵抗する」というストーリーである。
「今日までのあらゆる社会の歴史は、階級闘争の歴史である」というのはマルクス／エンゲルスの『共産党宣言』第1章の有名な書き出しだが、そのままの歴史観が描かれている。
さすがにこのような露骨な記述はその後の検定で姿を消したが、これがつい5年前まで使用されていたことに驚かざるを得ない。しかし、現在、日本の中学生の大半が使用している歴史教科書（東京書籍）も程度の差はあれ、同様の歴史観に基づいて記述されているのだ。
～今も常に階級対立をあおる記述が満載～
代表的な例を挙げよう。「文明の発生」の項目では国家の起こりについて説明されるが、そこには「食料が富としてたくわえられると、それをめぐる争いが増え、やがて集団が弱い集団を従えて、国ができました。（中略）しだいに人々を支配し、税を取るようになり、支配する者（王や貴族）と、支配される者（農民や奴隷）との区別ができました」と、これまた『共産党宣言』そのままに階級対立が記述されている。そのことはこの教科書全体を貫く認識でもある。
「奈良時代の人々のくらし」という項目では「ひとにぎりの貴族たちは、太政官をはじめとする役所で高い地位につきました。かれらは、調、庸や兵役が免除され、高い給与や多くの土地を与えられました。これらの特権は、その子孫にも引き継がれました。そのいっぽうで、少数ではありましたが、奴婢とされた人々は、売買の対象とされ、奴婢以外の人との結婚を禁止されました」と、ここでも階級対立を強調する。
その上、長屋王邸の復元模型と貴族の食事に対比して「一般の人々の家」として竪穴式住居の復元写真とともに、「一般の人々の食事」の写真に「玄米を主食に、野菜、山菜などを具にした汁が主な献立で、これに煮物がつけられることもありました。1日2食がふつうでした」との説明文を付けている。"格差"を印象付ける狙いだろうが、庶民が1日2食の食事をできるだけの豊かな生活をしていたのであり、この程度の"格差"は今の世にもある。この対比には無理があるというものだ。
鎌倉時代の「武士と民衆の動き」の項目では「地頭をうったえた農民たち」とのコラムがあり、紀伊国・阿?河荘（あてがわのしょう）の農民が地頭の酷い行いを訴えるために作ったカナ書きの訴状が紹介されている。現在は消えているが、旧版では1ページを割いての解説があり、そこには地頭から「この麦をまかないと、妻子を家に閉じこめ、耳を切り、鼻をそぎ、髪を切って尼にしてしまうぞ、縄でしばって痛めつけるぞ」と脅されたとの記述があった。これまた如何に「支配する者」が暴虐であったかを強調する狙いだが、あくまで脅しの文句であって、事実であったかどうかは不明だ。これを限られた時間数の中で中学生に敢えて教える目的は、言うまでもなく、階級対立を意識させることだ。
同様の記述は各時代にたくさんある。江戸時代の｢享保の改革と社会の変化｣の項目では「18世紀になると、多く野村が団結して、領主に年貢の軽減や不正な代官の交代などを要求する百姓一揆を起こし、大名の城下におし寄せることもありました。都市では、米の買いしめをした商人に対する打ちこわしがおこりました」とある。幕末も明治・大正時代も幕府や政府に対する不満から一揆や反乱を起こす民衆の姿を強調する。
一方、「支配する者」は自己中心的で暴虐であると強調することも忘れない。例えば秀吉の朝鮮出兵は当時のスペイン・ポルトガルのアジア侵略という背景を全く記述せずに、「秀吉は、国内統一だけでは満足せず、朝鮮、インド、ルソン(フィリピン)、高山国（台湾）などに手紙を送り、服属を求めました」とだけ書き、「朝鮮侵略」と断定する。
～天皇は不要という感情を醸成～
明治政府が身分制度を廃止したことについても「新政府は天皇のもとに国民を一つにまとめようと、皇族(天皇の一族)以外はすべて平等であるとしたため、それまでのきびしい身分制度はくずれました」と書く。ここでのポイントは「皇族（天皇の一族）以外は」との文言だ。それと明治憲法の記述、すなわち「憲法では、天皇が国の元首として統治すると定められ、議会の召集・解散、軍隊の指揮、条約の締結や戦争を始めることなどは、天皇の権限とされました。また、外務省や大蔵省の各大臣は、天皇に対して個々に責任を負うとされたため、内閣と議会との関係は不明確でした」という薄められた天皇制絶対主義に立つ記述が相俟（あいま）れば、天皇は不要という感情は容易に醸成できる。ここでは学習指導要領が求めている「天皇についての理解と敬愛の念を深めるようにすること」（小学校6年生社会）は完全に無視されている。
国家の存亡をかけた戦争であり、その後の世界地図を大きく塗り変えた日露戦争についても「日露戦争での日本の勝利は、インドや中国などアジア諸国に刺激をあたえ、日本にならった近代化や民族独立の動きが高まりました。いっぽう、国民には、日本が列強の一員となったという大国意識が生まれ、アジア諸国に対する優越感が強まっていきました」と否定的に書く。小村寿太郎や東郷平八郎、乃木稀典は出てこず、幸徳秋水、内村鑑三の反戦論・非戦論が強調されるだけである。その後の日本の展開はアジアに対してはひたすらマイナスの行為しかしていないという記述になっている。
果たしてこのような歴史教育で学習指導要領が言う「我が国の歴史に対する愛情を育てる」（小学校社会）、「我が国の歴史や伝統を大切にし、国を愛する心情を育てる」（小学校6年歴史学習）ことができるのか。逆に政府や会社を憎悪したり、反抗する心を育てているのではないか。また教育基本法改正案に示されている「我が国を愛する態度を養う」ことが可能と言えるのか。画に描いた餅と言わざるを得ない。
ありていに言えば、国民教育における歴史教育は、国民のナショナル・アイデンティティを育てることに目的がある。自分の生まれた国への愛情と帰属意識を育て、将来、自分の国のために貢献する存在にすることである。それは教育基本法の改正や学習指導要領に規定するだけではできない。
安倍首相の言う。「美しい国」づくりのためには歴史教科書の根本的なやり直し、歴史教科書の書き換えは不可欠である。安倍首相には今さらながら「教育再生」に当たって歴史教育の問題もお忘れなくと申し上げておきたい。
